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愛国主義の創成―ナショナリズムから近代中国をみる (世界歴史選書)
 
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愛国主義の創成―ナショナリズムから近代中国をみる (世界歴史選書) [単行本]

吉澤 誠一郎
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商品の説明

出版社/著者からの内容紹介

現代世界にもなお強烈な影響を与え続けるナショナリズム.国を愛し,国民の団結を叫ぶその思想運動は,いかなる社会状況のもとで形成されたのか.20世紀初頭の中国を題材に,反米運動と人種意識,地理観念と歴史認識,身体の文明化,愛国者の死と追悼,などのさまざまなテーマから,愛国主義の光と影をよみとく.ナショナリズムの文化=社会史.

内容(「BOOK」データベースより)

ナショナリズムは、近代世界を覆った最大の事象のひとつである。その力は、わたしたちが生きる現代にも、なお強い影響を与え続けている。清朝統治体制の再編と、外国勢力の介入に揺れる二〇世紀初頭の中国。やがて革命へと展開する激動の時代に、国を愛し団結することを訴える思想運動は、いかにして形成されたのか。海外移民と人種主義、都市秩序と国家意識、地理概念と歴史認識、身体と文明化、愛国者の死と追悼、などの多様な視角から、愛国主義の“光”と“影”をよみとく。ナショナリズムの文化=社会史。

登録情報

  • 単行本: 254ページ
  • 出版社: 岩波書店 (2003/3/26)
  • ISBN-10: 4000268430
  • ISBN-13: 978-4000268431
  • 発売日: 2003/3/26
  • 商品の寸法: 19 x 13.2 x 2.2 cm
  • おすすめ度: 5つ星のうち 4.5  レビューをすべて見る (2件のカスタマーレビュー)
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形式:単行本
中国愛国主義の起源を梁啓超の言説活動を基点として、綿密かつ多面的に論じる。

はじめに−梁啓超のアメリカ紀行
第一章 愛国主義の歴史的位相
第二章 同胞のために団結する−反アメリカ運動(一九〇五年)
第三章 中国の一体性を追求する−地図と歴史叙述
第四章 辮髪を刈る−尚武と文明への志向
第五章 愛国ゆえに死す−政治運動における死とその追悼
終章 愛国主義の論じ方

はじめに1904年梁啓超によって書かれた『新大陸遊記』と名付けられたアメリカ紀行文の紹介が行われる。ボストン茶会事件とアヘン戦争との対比、原住民の経験した苛烈な破壊を眼前にした中国の前途への憂慮、そして独立戦争での戦死者追悼碑への強い感銘が記されている。この中国の亡国に対する強烈な危機感を生々しく伝える文章は、中国愛国主義の起源を探る本著のプロローグとしては実に相応しいといえよう。

第一章は前近代国家「大清」における、多民族、多文化を包摂する多層的な統治体制が述べられる。また中国の愛国主義の発生期は、1895年の康有為らの挙人が日清戦争後の台湾割譲・賠償金支払いなどを定めた下関条約への抗議活動にあると論じられる。

また中国の華夷論、人種論などが論じられるが、これに関してはその後の時代を画すこととなる思想的事件として、1898年に刊行されたトマス・ハクスリーの『進化と倫理』を厳復が注付きで翻訳した『天演論』が紹介される。これが中国社会に進歩思想を植え付け、文明と野蛮という二元的構図が確立された。なによりこれは人種に関する言説であり、それゆえ人種毎の優劣を論じる人種主義に他ならなかった。

第二章においてはアメリカにおける「排華移民法」にたいする1905年に起きた大規模な米貨排斥の運動に焦点が当てられる。これは外国で虐げられている同胞に対する強烈なシンパシー、そして華人としての「アイデンティティ」が形成される契機であった。またこれは新聞、雑誌などの近代出版業、電信などの近代通信網、そして全国各地の同郷集団を束ねる会館、公館を抱える都市文化があってこその歴史的出来事であった。

続く第三章においては、世界の中の「中国」を認識可能とするための近代的地図の重要性、梁啓超に代表される歴史編纂の活動などが論じられる、王朝の正統に関する「史学」ではなく中国という実体に基づいた「新史学」が提唱されたのである。同時に「紀元」の問題も触れられ、政治的派閥よって黄帝紀元、孔子紀元などの確立が試みられたことが論じられる。近代国家にとって自らのナショナルヒストリーを確立することは常に決定的な問題であるが(日本の「国民の歴史」を巡る論争をみても)、その国家、国民の起源の集合的想像を可能とする「紀元」の問題もまた重要なイシューを構成していた。

また第四章の辮髪をめぐる論考も興味深い。辮髪が尚武の精神を必要とする近代国民像から批判され、西欧人の文明観を内面化した視点から中国の「野蛮性」の象徴とされ、また「夷」民族である満州清朝政府打倒の革命の象徴ともされた。ここで特筆されるべきなのは、極めて近代的な言説である文明/野蛮の社会ダーウィニズム的二元論の中国伝統華夷観との見事な結びつきである。

第五章は、清末にける死生観の「革命」である。個人的な「死」が大きな政治的、社会的、文化的意義をもった営為として看做されるようになった。ここで重要になってくるのが死者の顕彰、追悼のための集団的行為、つまり「儀式」である。中国においてよく認められる悲憤感慨からの死であるが、集団的儀式を通じて「国のための死」として「国民的英雄」として祭り上げられる。「死」への強烈なロマンチシズム・ヒロイズムが国家的枠組みにおいて形成されたのである。

このような「政治的に意味づけられた死」をめぐる実践様式は、中華民国の建国とともに体制下する道をたどることになる。革命烈士、愛国烈士の誕生である。このような「死の政治化」の現象の背後には日露戦争後の靖国神社における大典への宋教仁のうけた強い感銘、入営兵の掲げる「祈戦旗」をみた梁啓超の仰天があったということも重要な指摘である。

以上が(評者によりかなり恣意的に取捨選択された)極めて大まかな内容である。個人的には、政変時における譚嗣同の刑死を、梁啓超が自らの政治的意図のために「利用」したという指摘は、政治の生々しさ特に死者のまた死者に対する「記憶」の営為への考察を含んでいる点が興味を沸かせた。この点は「集合的記憶」に連関して別個でもう一歩踏み込んで研究されるべきか。
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By yjisan
形式:単行本
 清朝末期、列強による侵略が進行する中、「中国人」(実はこの用語も20世紀に入ってから成立したもの)の間では対外的危機意識から所謂ナショナリズムが高揚した。腐敗した清朝を打倒すべしと説く革命派もいれば、立憲君主制を提起する漸進的改革派もいた。革命派や改革派の内部にも多様な派閥・主張があった。しかし彼等は政治路線が異なるにもかかわらず、「愛国主義」というスローガンを共有した。
 本書は、新聞・雑誌など当時のメディアを賑わした「愛国」的な言説に注目することで、20世紀最初の10年がもたらした政治意識・社会思想の急速な変化を跡づける。一方で、辛亥革命の社会的・経済的背景といった発展段階論的な視点は意図的に省略されている。また、清末民初の政治運動家・梁啓超に光を当てた点も、本書の特徴と言える。梁は「開明専制」を唱え革命派を批判したがゆえに、革命にシンパシーを寄せる従来のマルクス主義歴史学では軽視されてきた。だが、様々な論説を精力的に発表したジャーナリストでもある彼は、本書の素材としてはうってつけの人物なのである。

 この時期に清の朝野で展開された「愛国主義」の議論は、現代から見ると多くの偏見や誤解に基づいていた。たとえば中国分割のためにアメリカ・ドイツ・ロシア・イタリア・オーストリア・日本によって国際委員会が作られたというデマ情報も流れた。しかし大事なのは、ジャーナリズムによって流布された情報の真偽ではなくて、そうした情報を少なからぬ中国人が信じたという事実である、というのが著者の立場である。辮髪を剪ることが中国の富国強兵に繋がる、という珍妙な主張もあった。「国のために死ぬ」と称しながらも、実は全然「国のため」にはなっていなくて単なる自己満足(ヒロイズム)のために自殺や暗殺に走った青年たちもいた。けれども著者は、これら諸々の行為が「愛国」というスローガンで括られた点に近代中国の特徴を見るのである。

 言説分析に基づき、その時代固有の精神・論理を読み解くという研究手法は、現在においては、それほど目新しいものではない。しかしながら、元々「中国」という確固とした国があり、「中国人」がその国を愛するようになったのではなく、その反対に、「愛国主義」という言説が「中国」という国家と「中国人」という国民を生み出したことを説得的に論じた本書は、やはり高く評価されるべきであろう。
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