出版社/著者からの内容紹介
内容(「BOOK」データベースより)
内容(「MARC」データベースより)
著者からのコメント
■装幀について
この独創的な小説の繊細さとスケール感を表現してくれる装幀家として、世界的デザイナーである中島英樹氏に全てを委ねた。出来上がってきた仕様は日本初の物で、実験に実験を重ね具現化に漕ぎ着けた。両面印刷の透過紙で表紙をくるみ、カバーも作る。壊れた薔薇、地図、怪物を思わせる青の抽象、心臓をイメージさせる赤の抽象、四つの図像が一つの図版を結ぶという仕掛けである。フーガがポリフォニーであることを伝えつつ、画一化された工業製品ではなく本も壊れ行く有機体であって欲しいと、小説にインスパイアされた中島氏がコンセプトを立てた。特殊紙のため、表紙は手作業で作られている。写真には映らない美を、是非、お手にとって御覧いただきたい。
著者について
抜粋
ミシンと海亀は、そう言って、私に物語を書くことを勧めた。
物語の中で、私はもう一度、恋を味わうだろう。いや、何度も、何十度も。
私の指はキーを打つことをやめはしない。やめた瞬間、砂の城は脆く崩れ去る。私は、
永遠に言葉というレンガで祈りの塔を築き続けなければならない。
これは、私の恋の物語である。愛を初めて知った、子供の物語である。同時に、死と暴力が支配するこの不思議な街で起こった、夕暮れから夜明けまでの、愛をめぐる奇妙な告白の物語である。
私は告白を聞くことを生業としているのに、自分の告白をすることに慣れてはいない。
だから、私は、私の客たちと同じように始めようと思う。
では、最初からお話しします、と。
始まりは闇である。闇の中に私はひとり。
私には、一切の感情がない。
冬の夜更け、キオミが死んだと聞かされた。飛び降り自殺だった。
キオミが小学校二年の時にレイプされたことは誰もが知っていた。キオミは、それを孔雀の尾羽のように広げて男たちを誘った。七歳にして、すでに、自分の体は女性としての快楽を十分味わえるほどに成熟していたのだ、とキオミは言った。それを確かめようとする男をキオミはすべて受け入れた。誘いは、女たちにも有効だった。私もキオミに魅かれ、何度か彼女と寝た。
葬儀には参列しなかった。キオミとは、もう、二年以上も会っていなかったし、葬儀というもの自体に価値を見出せなかった。葬儀は、永遠に来るはずのない主役を待つパーティーに過ぎない。
夜、葬儀に参列した友人から電話があった。
変な葬式だったのよ、キオミの写真がないからって、ちっちゃな頃のキオミの写真が飾られててさ、なんか、子供の葬式みたいで、私たち、浮きまくってたよ。
キオミの死にまつわる噂話が絶えることはなかった。キオミがドラッグに溺れていたという話も聞いた。売春をしていたという話もあった。街娼をしているキオミに、声をかけられたことがあるという男もいた。でも、皆が一様に気味悪がったのは、キオミが、真冬の夕刻に、東京中でもっとも夕暮れの風景が美しく見えるというビルの屋上から、遺書も残さず、白い夏用のワンピースで飛んだということだ。
キオミには似つかわしくない死に方だった。
キオミには似つかわしくない葬儀だった。