妻の小池真理子が「恋」で直木賞を取った後、旦那の藤田宜永がこの本で直木賞を取った。
「恋」よりこちらの方が、いろいろなタイプの男と女の心の陰影が深く描かれていて、心理劇を見るように読み進んだ。文庫版では本編終了後に「自伝エッセイ−受賞者が語る直木賞受賞までの軌跡 母親の顔」が所収されており、これを読むと「パーフェクトでなければ褒めてもらえない」母親へのトラウマが藤田氏の人格形成に陰を落とし、実に様々な経験と女性遍歴を繰り返したことが了解される。そんな藤田氏自身の心象風景がこの小説の登場人物全て、それは男も女も、に投影されている。だから深い。
NHK TV「今夜は恋人気分」でこの直木賞夫婦が出演しており、「外ではトキメキ、内では情愛」というタイトルだった。番組を見ていると小池の方がワルで藤田の方が純情なように見えた。「愛の領分」を読んで感じたのは、藤田はいわゆる「ワル」と後ろ指さされるようなことは若い時代に殆ど経験しているが、そういうワルをおもしろ半分とかカッコつけの為にやっていない。母親へのトラウマから脱するための必死な営みであり、女性遍歴を重ねながらも女性を信用できない(母親へのトラウマから)ジレンマに純粋に埋没したのだろうことだ。そういう意味での純情さが感じられる。
この「愛の領分」に主人公の淳蔵がわが子に言う言葉に、死んだお母さん(自分の妻)には情愛を感じていた、と。ああ、これがTVの「外ではトキメキ、内では情愛」ということなんだなと合点した。ちゃんと数えていないがこの本には「情愛」が2度出てくる。小池の「恋」には一度も出てこなかったと思うが。