間違ってはいけません。本書は文庫本ではなく、単行本です。大正7年1月(犀星29歳)発行の第一詩集を底本として、新字体に直し、複刻本に近い。何より本書作成に関わった人たちが錚々たる詩人である。序詩・序文は北原白秋。跋文は萩原朔太郎。装幀・図版は恩地孝四郎。
本詩集によって無名の一青年は一気に世に知られ流行詩人犀星になった。9月には第二詩集『抒情小曲集』が出た。「ふるさとは遠きにありて思ふもの…」はここに載せられている。
面白いことを言っている人がある。「『愛の詩集』と『抒情小曲集』のどちらを好むかで詩人の資質がわかる」と。立原道雄自身は『愛の詩集』挙げている>
珠玉のような白秋の序文がこの詩集をよく象徴しているだろう。
「愛の詩集一巻。之は何といふ優しさだ、気高さだ。さうして何といふ悲しさ、愛らしさ、いぢらしさだ。おお、ここにはあらゆる人間の愛がある。寂しい愛、孤独の愛、真実の愛、幸福な安らかな愛、正しい愛、虐げられ、呵責まれた愛、憐憫の愛、神のやうな愛、健やかな恵深い愛、忍従の愛、寛大な、而して叡智の潜んだ愛、自然の愛、新鮮なみづみづしい愛、善良で正直な愛、素朴な野性の愛、深大な愛、一人の、而して万人の愛、おお、さうして一切の愛、これらが皆この中にある。さうして、凡てが神の魂を有つた人間の安らかな良き心から流れ出てゐる…」