「飢えた人、裸の人、家のない人、体の不自由な人、病気の人、必要とされることのない全ての人、愛されていない人、誰からもケアされない人のために働く」「あなたが愛していることはあなたにとって都合の良いことなのではないか」これらマザーテレサの言葉に心が張り詰め、震撼した著者は、2008年4月5日の講演草稿を大幅に修正・補充した本書の前書きを「愛と痛覚をなくした時間、それが私達の日常である」と総括しました
本書を読了し、私は難しくとも、著者が言う世間という愛のない鵺のような存在に惑わされることなく、自分の個を保ち、肉親を越えて他者の痛みを感じ良心の下に生きたい、凡人ながら少しでもそうありたいと思います
実時間にその時代を読み解ける稀有な芥川賞作家であり、気付きを与えてくれる貴重な日本人として、重い病気を抱える著者が健康になることを願って止みません。以下、印象に残る著者の言葉
「痛みを共有することができないという絶望的な孤独を抱えて私達の生はある。ならば、その孤独にうちのめされながらも、なお他の痛みを共有しようとする不可能性にこそ私は愛の射程を見出す」
「一日2ドル以下の生活を強いられる貧困層は世界人口の40% 日本では10年連続で自殺者が3万人を超え、旧ソ連圏を除いて世界最悪の数」
「都合のいいことには泣き、負いきれないことには涙も流さずにむしろ目を背けていく。それが私達の日常です」
「世間とはほぼ純粋な日本語であり、殆ど日本にしかない概念なのです。あくまで顔色を伺うべきは世間なのです。SocietyやPublicは故人の尊厳を前提しますが、世間では個人が陥没する。テレビほど露骨にいかがわしい世間の様相をあらわにしているものはない」
「告解という制度が様々な抑圧の真理を生んだ一方、いわゆる西欧的な個人の自意識、あるいは死刑廃止を宣言したEUのように堂々と人間の良心を語るような自我をつくったことも事実だと思う」
「他国民にも死刑を拡大していくのが戦争。死刑と戦争は通底すると考えざるを得ない」