著者の平井さんより3つ下の私がおぼえている新宿は、工事中でいつもびしょびしょの狭い地下道、開演に遅れて席を探していたりすると蹴飛ばされる日活名画座、紀伊国屋書店はもちろん行ったけれど64年で9階建てって、そんなに立派だったかなあ(もっと小さかった印象)。
この本は2丁目の洗濯屋の息子として生きた平井さんの記憶、新宿という街の歴史、60年代文化、闘争、漱石さんら文学者の目を通しての新宿などを、ノスタルジーに閉じ込めることなく活写している。そして最後にはこの街を拠点に活動する店ベルクの持つ意味合いが描かれる。
敷石をもう一度はがすように書き抜かれるこの本を通して気がついたことは、現在の知性や面白い事象がじつはきわめて抑圧的なもので、つねに何かを隠そう忘れさせようと作用しているということ。ノスタルジーにひたったり、もっともらしい知識を消費して、もう一度面白いことに出会えないかと待っていてはダメなんだ。ここにいることを認めさせるような停滞しない知性を持って生きなければということ。
勉強になりました。ありがとう。