日本は海国と言われるが、海洋文学の傑作と言えるようなものは極めて少ない。その中で燦然と光る一冊が上梓された。本書は事実に基づいた極めて独自なものがあり、内容が深くて広い。
幼少時における船員への憧憬から、訓練所、処女航海、船長への道、漁労母船乗船時の逸話、ドック中の阪神大震災遭遇時のハプニング、そして長丁場となる深海調査業務の日々、全章を通じて感動のドラマが詰まっており、実に平易な語り口ながら、著者石田船長のバランスの取れた経験と知識が絶妙に統合され、文字通り「愛する海」を賦活する魅力に富んだ仕上がりになっている。
深海調査とはいかなるのもか? 特に、熱水噴出孔の探索・発見に至る過程は圧巻で、蒼茫たるインド洋の深海ロマンと一触即発の緊張を宿し発見間際のアプローチ、遂に発見、歓喜、想像を絶する深海の真闇の中へ進む様は、神秘的でスリリング、且つ、作業の透徹した厳しさが生々しくリアルに伝わってくる。
南半球のタヒチでのたまさかの出逢いに始まる、81歳のヨットマン畑下さんとの邂逅、以後の「海の友情」は、著者の真率で端的な表現に互いの心の絆の本質が託されていて、同じく海一筋に生きてきた小生にも一入で、通読中何度も込み上げてくるものがあり、鮮烈な感動を受け、涙した。
久しぶりに心が洗われ、まさに胸に沁みる作品に出合った。
畑下さんの言葉「上を目指して、一歩一歩、進んで行かなければならない」の至言は、即、著者の貫かれた生き様に重なり、本書後半の本題と感じられる。
静かで深い哀感を伝えて終わる最終章は印象的である。
本書は単なる「海洋物」とは異なり、各章に流れているものは「海への深い愛着」であり、船員を天職とする著者の誇り高き姿が綴られている。
随所にコラムとして海の一般知識も織り込まれている点も親しみやすく、若い世代の人たちに海の上だからこそ味わえるドラマチックな舞台を湧き立たせる本書を是非読んで頂きたい。