阿久悠氏が亡くなってあらためてその存在の大きさに驚いています。生涯に5000曲ほど作詞されたそうで、日本レコード大賞の受賞も数多く、昭和を代表する作詞家と言えましょう。
本書は、阿久氏が自分史の観点から昭和の歌謡史を綴ったものです。読み通すことで著者の生き様をたどることが出来ますし、一つ一つの歌のエピソードを知ることで昭和という時代の変遷やうねりを追体験できるようになっています。
平成の世になって各人の関心が個別分散化するようになりましたが、「歌は世につれ、世は歌につれ」と言う言葉通り、時代の空気を表すような歌謡曲が昭和には存在していました。戦前から戦後はラジオから歌が流れ、昭和30年代半ばからはテレビの影響力が大きくなり、高度成長の歩みとともに庶民の生活に歌謡曲は無くてはならない存在となりました。
戦前戦中戦後という動乱の時代の名曲「湖畔の宿」「長崎物語」「妻恋道中」「東京の花売娘」から本書の記載はスタートします。著者の幼年時代の思い出ですが、その世代の共通の体験記でもありましょう。
勿論、阿久氏が書き残した珠玉の作品とも言える数々の曲にまつわるエピソードは作詞者しか知り得ない貴重なお話でした。それにしても、本書で掲載されている「また逢う日まで」「あの鐘を鳴らすのはあなた」「ジョニィへの伝言」「時の過ぎゆくままに」「北の宿から」「ペッパー警部」「津軽海峡・冬景色」「サムライ」「サウスポー」「舟唄」「熱き心に」「時代おくれ」等のラインナップの凄さに驚きを禁じ得ません。
岩波新書という比較的硬いイメージの新書ではありますが、大変読みやすく興味あるエピソードが満載している本書の価値は大変高いと感じました。