田中ユタカ「愛しのかな」3巻。これを以って完結、堂々の最終巻。
日常の賑やかな話から、大吉くんとかなの愛の記録、ドラマティックな展開と持てるポテンシャルを全て注ぎ込んだような、
田中ユタカ自身にとってもある種の節目となるような一冊です。
実際、田中ユタカ作品では珍しく引きがあったり、やったことのないような話があったりと、
これをきっかけに彼の作品に興味を持つのも良いと思えるくらい、普遍的な作品として成立したと思う。
もちろん、「愛の描写」込みでですが。1巻と比べると少ないですが、確かにそういう描写も残っています。
生の実感ともいえる、大切な行為。それを「世界中で何よりも信じられるぬくもり」と表現されているのが何とも言えません。脱帽。
ネタバレを避けてお話すると、かなが色々な人に影響を与えます。
それぞれの人生に、確かに作用し、それは結果的にとても幸福な感情に変わります。
前回の引きで登場した路上の歌うたいの詩子さんが、残酷な一言を掛けられた時にかなが奏でたリズム、
コンビニのオカルト店長とのデート、そこでかなが見せた笑顔は忘れられない。
書き下ろし12ページのショートストーリーも、かなの存在の温かさを感じ取れるいい話です。
夕陽に満ちた鮮やかな部屋で、一人で自ら命を断った少女が、
それから幾年もの時を経て様々な人と関わり、人間としての尊厳を取り戻していく。
何よりも大吉くんの存在によって、今では帰れる部屋がある。「ただいま」と「おかえり」を言える。
そんな当たり前のことが何よりもいとおしくて、守るべきものなんだってことを実感させてくれました。
生きるって悪くない。ってことも。 彼女は実質的には生きているんだと思います。絶対に。
「愛人-AI・REN-」と通じる設定でありながら、それとはまた違った趣の作品になったと思います。
人のぬくもりがダイレクトに伝わってくるような、そういう作品です。名作だと思う。