デビュー作「浴室」から17年、という帯のコピーを見て、トゥーサンファンとしては感無量。これまでどちらかと言うと愛の始まりを独特の筆致で描いていたトゥーサン氏が愛の終わりを描いているのも、その舞台が新宿と京都なのも、涙もの。勿論ありきたりのストーリーや心理描写とは一切無縁なのに、ここまで感情移入させるトゥーサン節は健在。私たちは主人公の年齢も職業も知らされぬまま、一頁目から愛の終焉の重たいシチュエーションに入り込む。この愛がどのように始まり、なぜ終わるのか、そんなことはどうでもよくて、目の前に描き出されるプールごしの新宿の夜景が、ホテルのスリッパのまま飛び出した夜明けの裏町で足にしみ込む泥まじりの溶けた雪の冷たさが、やけどしそうに熱い缶入りカプチーノが、愛の終わりにつきものの、ほとんど眠らない人特有の時間感覚、身体感覚をリアルに表現し、胸をしめつける。やがて二人の間の夜が明けて、新宿の高層ビル街が地震に揺れ……このシーンの描写は圧巻。トゥーサン氏が挑戦し続けるのは、安っぽい心情から導き出される安易な言葉から逸脱し、言葉が導き出す、言葉しか導き出しえない心理を、言葉だけで構築することなのだ。