心の哲学の新星にしてもはや第一人者であるチャーマーズの主著。
中身は、非常に論理的かつ堅実なものとなっている。
全体の構成は筋が通っていて、明晰である。
まず、チャーマーズは、問題を正確に設定する。
心の哲学には、取り組みやすいイージー・プロブレムと、非常に難しいハード・プロブレムがある。
イージー・プロブレムは、意識はどういう機能を果たしているか、という問題で、これは脳科学を駆使すればおそらく解決できるものである。
ハード・プロブレムは、どのように意識が生じるのか、という問題で、これは科学では解けない問題である。
そして、哲学者が取り組むべきは、ハード・プロブレムだと言う。
我々は、ハード・プロブレムをイージー・プロブレムにすり替えて説明できた気になっていることがしばしばあるが、ハード・プロブレムに正面から取り組まなければならない。
次に、機能的には普通の人とまったく同じだが、しかし意識を欠いているゾンビの存在が論理的に可能であることから、唯物論を否定する。
つまり、意識は物理的なものに還元することは出来ないということだ。
しかし一方で、意識が脳から生じていることは間違いないことだと論ずる。
意識は、「既存の」物理学では解けない問題だが、いやだからこそ、我々は新しい精神物理法則を捜し求めるべきなのだ。
チャーマーズの論は、かなり建設的であり、また心の哲学の核心をついているといえよう。
クオリアと物質は、論理的には付随しているわけではないが、しかしこの宇宙においては付随している。
そして、その付随の関係が何であるのかを探るべきだ、というのは、当たり前でありながらも、あまり論じられてこなかった方向性だろう。
ただ、現実問題では、心を探ることが非常に難しい(言語によって歪められた形での内省報告しかデータをえられない)ため、どういう付随関係が成立しているのかが解明されることは、永遠にないと私は思う。
そういう意味では、マッギンの神秘主義のほうに私の考えは近いのかもしれない。
また、チャーマーズは強いAIの存在を擁護する。
確かに、ある機能的状態が満たされているならば、精神物理法則のため、AIに意識が生ずるというのは正しいだろう。
しかし問題は、シリコンで果たして正しく機能的状態を満たすことが出来るのか、であろう。
AIは、シリコンであるというまさにそのことによって、「どのようになすか」はニューロンと異ならざるを得ない。
そのため、シリコンであることそのことによって、必要な機能(条件)が満たされないならば、原理的にAIは不可能となるだろう。
あと、論理的な厳密さを追求しているため、2章あたりが分析哲学のような内容で、かなり重い。
これから読む人は、そこら辺を注意してもらいたい。