「右大臣実朝」「惜別」の2作を収録。
右大臣実朝は、東鑑からの引用を主体として日々起こり行く事柄を書き、
側近の人物の独白という形で太宰独自の解釈を加え、実朝という人物を描いてゆく。
この独白調は太宰得意の手法で、さすがに堂に入っており、鬼気迫るような完成度を感じる。
滅びの予感を持ちながらも超脱した姿を見せる実朝に、
太宰は貴族としての理想像を見ていたのだろう。
”HUMAN LOST”の中に、「実朝を忘れず」という一行があるように、彼の心の中には常に実朝があったのだと思う。
読後感は、どの小説にもない独特のものがある。
「惜別」
こちらは東北の老医師の手記、という形で、若き日の魯迅を語る。
が、この魯迅は、魯迅というより完全に太宰であり、読み進めているうちに魯迅の姿はまったく消えてしまう。
それを許せるか、許せないかでこの作品の評価は大きく変わるだろう。