いわゆる新訳です。多分、他の翻訳本と比べてもこっちの岩波版のほうが段違いに
読みやすくなっていると思います。訳者の谷川多佳子さんの努力に多謝。訳注も解
説もわかりやすいですし。
デカルトの死の三ヶ月前に出版されたこの本が扱ってる内容は、大きく2つ点に集
約されます。1つは心身二元論にもとづき人間の感情、情念について生理的な基礎
付けをおこなおうとすることと、もうひとつはその基礎付けたところから帰結する
ストア哲学にも通じる道徳論を語ること、にあります。ちなみに評判の悪い心身二
元論も、ストア哲学的な道徳論という観点からみるとちょっと違う意味を帯びてき
ています。
で、この本でデカルトが言いたいことは、情念=悪という見方を否定し、理性の善
悪の判断に従うかぎり情念に最も動かされる人間が最も多くの喜びを享受する、
情念は本性上善とする、それを正しく導くためには理性の導きが必要、ということに
要約されます。
読むとスピノザがいかにデカルトを意識していたのかがよくわかるし、モンテー
ニュやホッブスらと同時代的な類縁性を、つまり彼らが同じ土俵にいたことを強く感じました。
最後に一言。この本の最後のほうに収録されている、アリストテレスの名前を背表
紙にした本をふみつけにしているデカルトの絵がとても印象的です。