私は『
情報の技術―インターネットを超えて』は持っていました。それ自体の感想としては、「半分位は面白く読めるけれども、テーマに一貫性が乏しいので、一冊にまとまってしまうと興味の持てないものもあり、全部を面白くは読めないな」という感想でした。
驚いたのはこの本が加筆なしで再び新刊として出されるということでした。内容を知っているだけに、その宣伝の仕方を含めて言いたいことがあります。内容についてはクチコミやレビューのコメントに言いたいことをほとんど書いてしまいましたが、遅ればせながら本書を購入しましたので、まえがき・あとがき部分を含めてレビューとして投稿します。
まず、本書は1997年に出版された『
情報の技術―インターネットを超えて』の二度目の文庫化であり、まえがき・あとがき以外に加筆がないと著者は書いています。実際は『情報の技術』から修正された記述があるのですが、それは他の方が触れているのでここでは触れません。
【本書には納得できない】
本書のまえがきには、《私は、どの章にも新たに書き加えるべき言葉を必要としないと判断するに至りました。》と書かれています。他の方も指摘されていますが、私もこれには納得できません。他のレビューやクチコミで触れていない点を二つ挙げておきます。
・第5章ではNIFTY SERVEの入会方法や操作方法が細かく説明されているが、既にNIFTY SERVEはサービスを終了させて久しい
・第9章で東北大学の半田康延教授が登場するが、その後に起きた北陵クリニック事件に全く触れず、その後の患者の病状の経過や健康状況なども補足されていない
これらに対し、書き加えるべき言葉を必要としないとする感覚が私には理解できません。
【本書では何を予想したのか】
『
ダダ漏れ民主主義 メディア強者になる!』のあとがきに次の記述があります。
《自分で言うのも何ですが、15年ほど前に書いた『情報の技術』(朝日新聞社、月刊誌「論座」の連載は1994年から。出版は1997年)を読み返すと、その25章すべてが現在、そこで書いた通りになっていました。》(漢数字は算用数字に改めた)
なお、このあとがきは著者の公式サイトに全文掲載されています。
さらに、『
電子書籍を日本一売ってみたけれど、やっぱり紙の本が好き。』の29ページには次のように書かれています。
《さらに言えば、この『情報の技術』という本は、後々まで「'95年にすべてを予測していたのはすごい」と言われた本でした。自分で言うのもアレですが、「そうだろ?と思います。》
そして、本書の商品の説明では、《今日読み返すと、時代はすべて「この本」に書かれた通りになった。》と書いてあります。この文はアマゾンのページにも掲載されています。
本書の23章は著者がソフトボール部のコーチとして奮闘する話です。《その25章すべてが現在、そこで書いた通りになっていました。》というならば、この章で著者は一体何を予測したのだろうか。第9章では東北大学の半田康延教授が登場するが、北陵クリニック事件を予測しているわけでもなければ、第19章で被疑者の無罪を予測しているわけでもない。DNA型鑑定の証拠能力について疑義を正しているだけです。
それが問題だと言っているわけではありません。ルポルタージュですから、予測をする必要はありません。ただし本書を上記のように未来を予測した本として宣伝するのは問題があると考えます。
足利事件について現在何かを読みたいのであれば、『ダダ漏れ民主主義』の編集者が薦めている『
足利事件(冤罪を証明した一冊のこの本) (講談社文庫)』や、彼が現在編集している『
g2 ジーツー vol.8 (講談社MOOK)』を読んだほうがよいでしょう。g2はウェブサイトである程度記事を読め、会員登録(無料)をすることで記事全文を読むことができます。
【電子書籍化の時期】
本書の「文庫本のためのあとがき」には次のように書かれています。
《本書は、まず朝日新聞社の月刊誌(1994年12月号〜1997年7月号)に連載され、それらがまとめられて単行本になり(同前、1997年10月刊)、次いで文藝春秋から文庫化され(2001年3月刊)、それぞれ版を重ねて2008年には電子書籍として蘇りました。》(漢数字は算用数字に改めた)
つまり、この本が電子書籍となったのは、2008年であったとのことです。しかし、次の疑問があります。
1. 著者の公式サイトでの『情報の技術』電子書籍版の販売開始時期
メールマガジン「ガッキィファイター」2009年6月8日号(第321号)では 《私のサイト(「ガッキィファイター」)では、絶版本をすべてPDF化して読んでいただけるように作業を進めています》 とPDF販売準備中の告知が出ており、著者の公式サイトで売っているPDFのうち一番古いものは「絶版本電子書籍」の『されど、わが祖国』です。その後、メルマガの2009年10月6日号(325号)でPDF販売開始を告知しています。その後、第332−0号(2010年1月24日配信)で《私の代表作『情報の技術』について》という告知が登場し、第332号(2010年2月1日配信)に《電子書籍『情報の技術』(2,650円→特価1,500円)》と販売告知が載ります。これらは著者の公式サイトですべて確認できます。
2. ボイジャー理想書店での『情報の技術』電子書籍版の販売開始時期
公式サイト以外では、ボイジャー社の理想書店で『情報の技術』の電子書籍版を取り扱っています。理想書店では販売開始時期(登録日)を明らかにしていないため、まず問い合わせをしてみました。回答はありませんでした。
しかし、次の方法で大体の時期はわかります。まず理想書店で「日垣隆」を検索し、登録日降順でソートします。すると、『情報の技術』より前に『裁判員制度を笑う』という商品が登録されていることがわかります。これの詳細を見ると、この商品は《2009年3月20日》の講演会を元にしている、と書かれています。ということは、『情報の技術』の登録日は少なくともそれより後であることがわかります。
では、『情報の技術』の電子書籍版をどこで「2008年に」取り扱っていたのでしょうか?
手抜きの編集、おかしな宣伝、不明瞭な実績の記述、これらにより「悪くない」本であったものがメチャクチャにされてしまったことはまことに残念ですが、それらはすべて著者が引き起こしたことと考えます。
いまこの内容を読むなら古本か図書館で十分です。買う時は、目次くらいは確認した方がよいでしょう。何しろ、この本は14年前の本ですからね。
(2011年11月8日追記)
以下のように誤字を修正しました。
修正前:まえがき・あとがき以外に加筆がないと筆者は書いています。
修正後:まえがき・あとがき以外に加筆がないと著者は書いています。
また、【電子書籍化の時期】について詳細な内容をコメントとして記述しました。