この本は、吉村昭「戦艦武蔵」のような文学でも堀越二郎ほか「零戦」のような技術者伝でもない。画期的な高性能だったが、戦争突入により本来の実力が発揮できなかった悲劇のエンジン、という神話すらも否定する。むしろ、「誉」の設計は、開発戦略の基本や生産の現実を無視した技術的な失敗だったと、丁寧に論証していく。その点では、設計者中川に対しても容赦ない。実に手厳しいが、密度の高い公正で真摯な技術史論なのである。
が、とてつもなく面白く、一気読みした。
陸海軍の航空技術部門や政商中島に率いられたワンマン企業の実態がどうだったか。「省あって国なし、局あって省なし」的矛盾と戦略の欠如。功を急ぐ権力者の性急な指示や現場への介入。本来の目的や本質を外れた技術閥的対立と棲み分け的乱立。現場知らずのエリート設計者の偏重。技術スタッフの対症療法業務への乱用と消耗。窓際に居並ぶ天下り。脈絡のない技術導入や性急で際限なくくり返す新機種の投入。…実は、その血脈が戦争を越えていまの日本にも受け継がれていて、戦後の高度成長や技術立国の神話にもかかわらず、いまもどこかで同じような悲喜劇が現実にくり返されている。