C.S.ルイスといえば、英文学の世界では「シンボルとアナロジー」を著した大英文学者であり、児童文学の世界では『ナルニア国物語』の作者として知らぬ人はない。
しかし、文学者としての顔に比べれば、オックスフォード大学の教授として、イギリス国教会の有名な説教家であったという顔は、宗教色の少ない日本では、あまり知られていない。
ルイスは、青年時代に第一次世界大戦(1917年)に従軍したほどの昔の人。
この本は、第二次世界大戦後、その最晩年に書かれたのだが、彼は、オックスフォードの教授陣に聖職者としての名残があった最後の世代だ。まるでカトリックの神父のように「独身」であることが、美徳であった化石のような存在。
だからルイスも、長年独身を通し、独身で英文学と一般向けのキリスト教の説教に打ち込んでいた。
ところが、彼は、最晩年になって、アメリカ人の女性と秘密結婚をする。その間の事情は映画となった『永遠の愛を生きて』に詳しい。しかし、結婚を公表した時は、すでに妻は末期の癌だった。
妻の死を看取ったルイスは、自分の信仰には、実生活の苦悩から守られた上で理想的な信仰という一面があったことに気づく。
彼にとって、そこから真の信仰の日々が始まったと言ってもいい。人間の本物の苦悩に基づいた、魂の
叫びとしての信仰の姿が、ここにはある。
信仰というと、日本では「私には関係ない」と思われる人も多いかもしれない。
けれど、特定の宗教を信仰していない人であっても、この本に描かれた人間の魂の叫びには、一読の価値があると思う。
児童文学者としてのルイスのもう一つの大切な面を知るためにも、ルイスのファンの方には、ぜひ読んでいただきたいと思う。
ナルニア国物語の最後の何巻かは、癌の妻を看取りながら書かれたものなのだから。
素晴らしい訳文のおかげで、詰まることなく、味わい深く読むことができるのもありがたい。