皆さん書いている通り本書は『海と毒薬』の続編的な本でありますが、私はこれしか読んでいませんのであらかじめご了承下さい。
1週間前に読んだ彼の本『大変だァ』がかなりお気楽なタッチでして、それが頭に残ってたせいか社会風刺満載な前半は通学の電車の中でくつくつと口元だけで笑っていました。
しかしさすがは遠藤周作、それはいうなれば食らいつきやすいエサであり魅せたい本筋はもっと別です。
まず、全編にわたってめくるめく人と人とのつながりの中で傷つき荒んでいく魂の軋りを痛切に感じました。
話の中心である産婦人科医は妊娠中絶の業に悩んでいます。
元はといえば人を救おうとなったはずの職業。
それが今や堕胎に手を染めるただの人殺しに変貌した自分、奪ってきた命に対する罪の意識、彼の精神的疲労は周りには愛想の悪い中年としか映りません。
そしてそれと対極に居る外国人。
ただ人を愛する事しか知らないがために、苦しむ人々のために彼は全力を注ぎます。
他の登場人物はごく普通な生き方をしている、つまり皆どこかにひた隠しにしている影をひきずって不自由そうにしているのに対し、彼だけは絶対的な善人(キリストの模写らしいですが)として世の中のあらゆる不幸のために泣くことができるのです。
罪に押しつぶされそうになる人とそれを救おうとする人、そして自分の罪からは全く目を背けてしまっている大勢の人々、この3つに分けられた登場人物たちは妙に生々しく、読者である自分がどれに位置するのかを炙り出されそうで、途中から読むのが少し恐くなりました。
それでも先を読まねばと思ったのは、自分の中にある罪を少しでも直視しようという心の動きだったかもしれません。
断じて明るい本ではありませんが、私と何か似通った不安感みたいなものを感じてもらえたらなぁと思います。