英国を代表するダーク・ファンタジー界の女王タニス・リーの幻想怪奇ジャンルの傑作9編を収めた極上の一冊です。本書収録の各編は著者の本領が最も発揮された内容といえるでしょう。吸血鬼・魔女・魔道師・死の女神といった異端の存在を怪談・お伽噺の手法で語り、耽美的で幽玄を感じさせる物語世界に酔いしれさせられます。何れの短編を取っても非常にエレガントな印象で、物語の結末も唐突で不自然な物は一切なく深く納得させられ、それぞれに忘れ難い余韻を残してくれます。私の最も心に残った4編を紹介します。『悪魔の薔薇』:著者が自作中もっとも恐ろしいもののひとつと評する作品。旅人の男が旅先で偶然‘悪魔に魅入られた女’に出逢って恋に落ちるのだが・・・。幻想譚と思わせて実は現実的で残酷な結末が待っています。『彼女は三(死の女神)』:20世紀前半のパリを舞台に詩人・画家・音楽家の三人の芸術家が死神に取り憑かれてゆく過酷な運命が描かれます。『愚者、悪者、やさしい賢者』:アラビアン・ナイト風のお伽噺で、三人兄弟VS魔術師の構図の物語。魔法がたっぷり出て来て最後まで存分に楽しめます。『青い壺の幽霊』:著者が父親からもらった青いガラスの花瓶に触発されて書いた幻想譚。魔道師が偶然に手に入れた七千もの魂を封印する壺に魅入られていく顛末と報われぬ愛を描く悲恋の物語です。著者は二百を超える短編を書かれているそうですので、今後も未訳の素晴らしい作品をどんどん紹介して頂きたいと熱望致します。