19世紀前半の英国。父親が死去し、母と妹ケイト(サリー・アン・ハウズ)と残さ
れたニコラス・ニクルビー(デレク・ボンド)は、伯父ラルフ(セドリック・ハードウィ
ック)に頼るべくロンドンにやって来る。高利貸しの伯父は、情に薄く、何事も事
務的に対処する人物だったが、ニコラスに寄宿舎の教師の職、ケイトに衣装の
お針子の職を、それぞれ紹介する。ニコラス、ケイトともに、新しい人生の第一
歩を踏み出すが…。
文豪ディケンズの長編小説『ニコラス・ニクルビー』(1838〜1839)を、世界映画
史を駆け抜けた怪人、アルベルト・カヴァルカンティが映画化した作品。原作の
エッセンスを損なうことなく、実に上手く映画的に脚色、まとめ上げた秀作だ。
19世紀イギリスの猥雑な雰囲気が見事に映像化されている点は、デヴィッド・
リーンのディケンズ作品にも全く引けを取らない。
波乱に富んだストーリー、クセのある登場人物たち、善と悪、清と濁が渾然と入
り混じった世界観…など、ディケンズ作品の味をコンパクトにまとめると同時に映
画的芳醇さを出してみせたカヴァルカンティの演出手腕には驚くばかりだ。フラ
ンスで美術スタッフとしてキャリアをスタートさせただけあって(あのラザール・メ
ールソンが弟子!)、ヴィクトリア時代の豪華で精緻な(生活感ある)セットを背景
に、バルコン・タッチと呼ばれるドキュメンタリー調の感触を添えた語り口が絶品。
また、『
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などの恐怖演出でもその名をとどろかせたカヴァルカンティらしく、ハードウィック
が自殺を図る、おどろおどろしい雰囲気のシークエンスも、相当迫力があって恐
ろしい。つまるところ、本作は、カヴァルカンティの映画人として培われた経験、
知識、技巧が存分に生かされた逸品ということだ。イギリスの名優たちが、(いい
意味で)みな演劇人然として品格があって素晴らしいところだが、サリー・アン・
ハウズの清新な美しさが際立っている。
本DVDは、Studio Canalのマスターを使ったもの。残念ながらPALマスターなの
で、35mmフィルム尺(=NTSC)より4%早い収録だが、陰影深い白黒の画質が実
に素晴らしい。音声も、(よほど音に敏感な耳の持ち主でない限り)音楽、セリフと
もそれほど高くは聞こえないはずだ。
何かと問題が多いCMCという、フランスの字幕ラボで制作される日本語字幕も、
硬い箇所はあるものの(おかしな漢字の使用はなし)、いつもよりはこなれた日本
語翻訳で、鑑賞の妨げになることはない。ただ、52:40あたりの字幕は、「どへ行
った」と「こ」が抜けてしまっている。フォントは、例によってゴシックだが、複数の
登場人物のセリフが数行で表示される愚挙も今回は避けられている。