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この作品は、土地の有力者ワルワーラ夫人、その住み込みの家庭教師ステパンがそれぞれ、虚無と悪徳に憑かれた主人公スタヴローギン、その腹心ピョートルを産み出してしまう設定になっています。若い二人の教師であったステパンの愁いが、現行の秩序や神の存在についての疑義につながり、そんな教師をもった生徒たちがニヒリズムに突っ走る結果になるというのは、作者のロシア社会に対する皮肉でしょう。つまり、作品の根底に、ロシアにおいて、無神論はどこから生まれて来たのか、というドストエフスキーの問題意識があるのです。当時のロシアは、農奴解放令によって旧秩序が崩壊し、動揺と混乱の只中にありました。激動の中人びとは新しい秩序を模索しますが、無神論やニヒリズムに基づく行動規範は混乱を深めるだけです。ドストエフスキーは、信仰をもたない人間は、生き方の倫理的基盤が定まらず危うい、とこの作品で痛切に批判しているのです。その問題意識自体はきわめて現代的ですが、キリスト教の信仰という回帰する場所をもたない人は、この本を読んでますます途方に暮れることになります。
ドストエフスキー存命中は、この作品を理解するうえでもっとも重要と思える「スタヴローギンの告白」の章が、何度も書き直したうえでも作者が納得しなかったため、結局削除されていました(邦訳では、巻末に収録されているので読むことができます)。その一件でも分かるように、この作品は相当難産だったようで、文中から作者の苦しみが伝わってきます。「罪と罰」などと比べると、読みにくく難解であることを覚悟して取りかからなければならない本です。
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