島田雅彦の本を手にするのは、なんと処女作の「優しいサヨクのための嬉遊曲」以来27年ぶりだ。繊細で如何にも純文学志向と思えた処女作を思い浮かべながら、エンタメ本の傑作と各書評で評判になっている本書を半信半疑で読み始めたが、これが確かに予想以上の出だし、27年前の読了感を思い返しながら、失礼ながら、純文学者(と私は思っていた)が書いたにはあまりに通俗的で面白く、奥田英朗あたりの手による物と言われた方がしっくりすると思えた。
ホームレスが受け取った100万円は、ネコババした美容師たちから親孝行なキャバクラ嬢の手へ、小市民たちの欲と思惑を加速させながら次々と渡った上で、巧妙極まりない贋札として警視庁のもとへたどり着く。
各章が数ページに区分され、オムニバス劇の如く幾多の登場人物たちが翻弄されていく。日本を襲う経済パニック、スタグフレーションの危機から、中国資産家たちの日本植民地化計画の野望へと大風呂敷を広げる展開。資本主義の負のメカニズムを衝き、台頭していく社会主義的コミューンの存在と、ここら辺は、何やら村上春樹の大ベストセラーを意識させる。
人間ドラマに金融サスペンス、それにラブロマンスまで加味してみましたとのお手盛り感覚だが、果たしてそれがダイナミックに物語に連動してくるかと言うと、終盤、腰砕けとなるのが残念。
“銭洗い弁天”とか“宮園エリカ”と言った文学性をまるで感じさせないネーミングが笑えるが。