紀伊國屋さん、またしてもやってくれました!反骨の映像作家ロバート・アルドリッチ監督の『悪徳』の登場です。
映画の舞台はほとんど主人公の屋敷内ですので、演劇をみているような錯覚におちいります。それもそのはず、リベラル派としても知られる舞台作家クリフォード・オデッツ原作の同名舞台の映画化がこれ。したがって、いやでも俳優陣の演技に注目がいってしまう巧いつくり。
アルドリッチ作品でお馴染みのジャック・パランスが架空のハリウッドスター、チャールズに扮して、飾られた名声と良心との狭間で葛藤する姿をさらけ出します。パランスというと一辺倒の悪役や癖のあるアクションスターという印象がありますが、もともと舞台俳優として馴らし、舞台でマーロン・ブランドの代役を務めたぐらいの人ですから本編の演技も程よく熱がこもっていてたいへんいい。悪役向きのバッドマンフェイスが格好良く見えてくるから不思議です。悩めるチャールズの妻マリアンに名女優アイダ・ルピノ。イギリス人ならではの上品で美しい立ち振る舞いを見せながら懸命に夫に良心をとり戻させようと苦悩する女性を演じています。ただ、チャールズの弱みを握り、強引に支配下に置こうとする悪徳映画製作者ホフを演じたロッド・スタイガーの演技が大袈裟なところがたまにきず。この人、しばしば自分の演技力をはなにかけて必要以上に暴走してしまうところがなきにしもあらず。
しかし、その他の助演陣の演技が素晴らしいので、そんな弱みも吹き飛んでしまいます。口の軽さで皆を困らすディクシーに扮したシェリー・ウィンターズといい、心優しいエージェントに扮したエヴァレット・スローンといい、ホフの懐刀スマイリーに扮したウェンデル・コリーといい、俳優夫妻のよき友人で良識のある作家ハンクに扮したウェスリー・アッディといい、チャールズのボディトレーナーのニックに扮したニック・カラヴァト(『キッスで殺せ』の「ヴァヴァヴゥ〜ン」の修理工リックと同一人物)といい、誰もが本当に程よい演技で魅せてくれます。まさに演技のアンサンブルとはこれ!
アルドリッチ監督は多少大げさながらも映画界の闇をあつかった作品に果敢にチャレンジ。無論、監督としてあくの強い演出を好む一面を持ちながら、本編では俳優の演技に重点を置いています。そんなわけで『悪徳』はアルドリッチ監督の反骨精神が十二分に反映された大いに見応えのある映画版舞台劇に仕上がっています。