23 人中、20人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
大切な人はおるね? その言葉が胸に沁みる, 2010/12/21
レビュー対象商品: 悪人 (特典DVD付2枚組) [Blu-ray] (Blu-ray)
やるせないほどの愛情で結びつく男女を、体当たりで熱演する妻夫木聡と深津絵里が素晴らしい。深津絵里がモントリオール映画祭で主演女優賞を獲ったのも納得。本作は、主人公と彼が殺人犯だと知って一緒に逃げようとするふたりの『愛の逃避行』であるわけですが、彼らをめぐる人々の群像劇でもあります。
祐一の祖母を演じる樹木希林がさすがに素晴らしい。純朴な老人を狡猾に騙す悪徳業者や、執拗にカメラを向けるマスコミに狙われる祖母は、最も弱い人間に思えますが、孫の祐一を心から慈しむ気持ちが、最後には彼女を強くする。また、身勝手な娘だとしても無条件に殺された我が子を愛する父。演じる柄本明がこれまた素晴らしい。
そして、責任感皆無の人を見下すことでしかプライドを保てない甘ちゃん大学生。岡田将生は、こんな役もできるんだと思わせる好演でした。満島ひかりも、殺されてしまう自己中女を見事に演じきっています。その『小悪魔ぶり』と『うざさ』は、祐一を正当化するに足るほどです。
もちろん、殺人犯の祐一は悪人です。宣伝文句の「誰が、本当の悪人か」の答えもさることながら、『悪』の位置づけの変化を感じます。
それは、どんな理由であれ、殺人は悪いことで、祐一も、それは悪だとわかっていた。でも、当初は、それは祐一にとって悪かったと思っていない“客観的な悪”だったのですよ。それが、光代と出逢い、彼女を大切に想う気持ちが芽生えてから彼にとって、客観的だった悪が、“主観的な悪”に変わった。被害者に心から申し訳ないという『罪の意識』心の目がひらいたということじゃないでしょうか?
そしてラスト、いよいよ逮捕の時が迫ったとき、祐一は恐るべき行動をとります。これには、さすがに仰天しますが、その結果は後日談のような静かなラストシークエンスで明らかにされます。
映画を観終わった後には、よどんだ澱(おり)のような暗い感動が残ります。それでいて小さな希望を感じるのは、祐一が祖母にプレゼントしたスカーフが、殺人現場に結ばれていたから。それとも、悲しい眼をした祐一が最後に泣いたような笑顔を見せるからか。彼女の為に『悪人』になってやる事。愛する人を“被害者”として守るためにあんなことをしたからか。
被害者の父が“大切な人はおるね?”と語りかける一連の言葉が耳に残ります。
15 人中、12人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
He's a real nowhere man, 2011/1/16
レビュー対象商品: 悪人 (特典DVD付2枚組) [Blu-ray] (Blu-ray)
劇場で3回ほど鑑賞しました。久々に重厚な邦画を観た、という印象です。邦画は普段あまり観
ないので最初は行こうかどうしようか正直迷っていたのですが、結論から言えば行って正解で
した。李 相日監督の作品は過去に『フラガール』を観ていて「それなりに良く、楽しく出来て
はいるけど、さして印象には残らない」という感想を持ちました。が、この作品では一転、重
厚な映像、鬼気迫る演技、複雑な設定を過不足無く描ききり、なおかつ観るものにズシリとし
た印象を与える脚本とカット割り、どれをとっても賞賛に値する出来で一見の価値があります。
主役の妻夫木 聡、深津絵里の演技もかなり良かったのですが、脇を固めているのが樹木希林、
柄本明、音楽に久石譲などと隙が無く、この映画の本気度を感じさせます。昨今、邦画が盛り
上がっているようなのですが、私はもともと洋画派で「邦画はね」と甘く見ていたらすっかり
やられてしまいました。邦画のレベルもかなり上がったといわざるを得ません。
この映画はいわば惹かれあう孤独な魂の物語です。現代と言う、うまく泳げる者にとってはか
つて無いほど泳ぎやすい代でありながら、反面不器用で荒削りな人間にとっては底なし沼に嵌っ
てしまったかのような重い足取りで生きてゆかなければならない、そういう時代を象徴するア
イコンがいくつも出てきます。ケータイ、出会い系、肉食女子、援助交際、婚活、介護、格差
……etc. そんな中でふと巡り合った孤独な二人が、ある意味真実の愛を見つけます。ですが、
そこには絆を裂く重い事実が横たわっています。そこを乗り越えるのか、乗り越えないのか?
そういう状況に陥らせてしまった原因とは一体何なのか? そもそも「悪人」とは一体誰なの
か? それを問いかけるのがこの映画の主題です。
この映画で最も優れていると思うのはその視点です。ややもすれば一方に感情移入を促し、勧
善懲悪的に「悪人」を決め付けてカタルシスを誘う事をこの映画は頑として拒みます。その双
璧として樹木希林、柄本明を位置づけていて、観るものにどっちに感情移入すべきか複雑さと
混乱をもたらします。
特に印象的だったのは土砂降りの雨の日、殺人現場に柄本が佇むシーンです。雨の中一人で立っ
ていた柄本をカメラが回り込むと、そこには死んだはずの娘が立っています。その娘も物語の
中で重要な役を演じるのですが、そこではそういった背景を抜きにして「死んでしまった娘と
その父」であることのみがフォーカスされます。娘は口をききません。ただ、父親を見つめ涙
を流します。柄本も泣きながら「どうして死んだんだ」と責めるとも、悔いるとも、あるいは
疑問を投げかけるともいえぬ言葉を発し続けます。死んでしまい、土気色になった娘の姿。モ
ノクロームに近い、非常に重い映像が観るものに強烈な印象を与えます。娘にも非難されるべ
き点が数々あります。ですが、ここでは「死」というもうやり直しがきかない重い事実、無垢
な真実のみが存在するだけなのです。この映画はそういった数々の事実の集積と言えるでしょう。
この映画は妻夫木が「自分を捨て切って」挑んだ映画ということで、いつものさわやかな印象
はまるでありません。中途半端に髪がのびてしまって、いわゆる「プリンちゃん」になってし
まった金髪も実にリアルで、地方で地味に働く無口な若者という雰囲気をうまく伝えています。
一方の深津も冴えない国道沿いの紳士服店の店員をよく演じています。彼らの現在は暗く、将
来も明るそうとは言えません。時代が進むにつれなを激しさを増す格差。財や美しく名のある
ものだけが尊ばれる現在において、置き去りにされてしまった彼らは、あたかもThe BEATLESの
曲にある『Nowhere Man (ひとりぼっちのあいつ)』であるかのようです。そしてやはり、そ
の中で歌われているように「Isn't he a bit like you and me...(だけど、何だか君や僕みた
いでもあるよね)」とも感じるのです。
人ごととは思えない映画でした。
19 人中、15人の方が、「このレビューが参考になった」と投票しています。
5つ星のうち 5.0
私が出会った 「悪人」, 2010/10/30
レビュー対象商品: 悪人 (特典DVD付2枚組) [Blu-ray] (Blu-ray)
李監督と原作者の吉田さんが共同で脚本を練っただけあって、ほとんど原作通りの場面が何箇所もあり、原作のファンとして、非常に興味深く見ることができました。とにかく李監督のこだわりがハンパないらしくて、例えばロケーションひとつにしても、原作に出てくる実際の場所やお店じゃなきゃダメというように、原作の空気感をリアルに再現するための相当の努力が払われたようです。
純粋に1本の映画として考えてみても、この映画が素晴らしいことに違いはないですが、反面、ちょっと解釈のしにくい、一筋縄ではいかない映画でもありますよね。一見して私はこの映画のことを「純愛映画」だと、そんな風に感じたものですが、おそらく私のこの解釈も、映画の一面だけを言い当てたものに過ぎないでしょう。
キャスト的には文句のつけようのないくらい完璧ですが、やはり妻夫木くんと深津さんの2人が本当に素晴らしい。特に、無口な2人の表情や仕草を見るだけで、それぞれの抱える「孤独さ」が身に沁みて感じられるところが、絶品の演技だと思うのです。
孤独な2人が魂と魂で触れ合うようなそんな姿は、はかなくてせつなくて、美しいとさえも感じたものです。ラブホテルの一室とか、灯台のそばの小屋の中とか、お世辞にもキレイな舞台設定ではないんですけどね。2人の愛を「純愛」と呼ばずに、他に何と呼べば良いのでしょうか。
ラストシーンがまた素晴らしくて、心から何度でも観たいと思えるシーンです。朝焼け(夕焼け?)の中、灯台から海を眺める2人のクローズアップなのですが、2人の表情の意味は……わかりません。「謎」ですね。「謎」なんだけど、観ていると不思議と涙があふれてきます。