姜さんのことは、何度かテレビで拝見してその謙虚な語り口とまじめな雰囲気で好感を持っていたが、この本はいったいぜんたい何なんだろう。悩める人に勇気を与える本なのかと思って買ってみたが、これはひどい(笑)。
多くの人はおそらくこのタイトルから「悩みのススメ」というような内容を想像すると思うが、実際の内容はそれとは大きく異なっている。特に最終章では、姜さん自身が悩むのをすっぱりとやめてしまい、ミュージカルの俳優になってハーレーで冒険に出たいという壮大な夢を語りだす。これはつまり、若いときから悩みずぎてしまったので、もう悩むのやめました、という宣言らしいのであるが、これではタイトルとはかなり違和感があり、読者の期待から大きく外れているのではないだろうか。若い時はたくさん悩みなさい、そうすればいつかは悩まなくてもよくなって幸せになりますよ、という意味のようだが、これはちょっとまずい。なぜならこの本で姜さん自身が、偉大なる悩める先輩として例に出している漱石やウェーバーは、死ぬまで悩み続け、悩むことこそが生きることだということを自らの人生をかけて実践し、だからこそ後世の悩める人々に勇気を与え続けることが可能なのである。この本のような、もう悩むのやめました宣言では、本当に悩んでいる人には何の役にも立たないし、そもそも悩んでない人はこの本を手に取らないだろうから、つまりこの本は誰にとっても無益な本であるといわざるを得ない。
それと、愛とは何か、仕事とは何か、など、その答えが人の数だけ存在するような哲学的な問いに対して、次々とアフォリズム的な解答を繰り出しいくのはいかがなものか。その言葉もどこか表層的で、ありふれた実存主義的な模範解答になってしまっているのが残念だ。答えを一方的に提示するのではなく、もっと読者に問いかけるような方法で書くほうが姜さんらしいのではないだろうか。漱石やウェーバーは、決して答えは出さなかった。彼らは自分の等身大の悩みをそのまま質問として社会に提示したからこそ普遍性を獲得できたのだと思うが。新書なので致し方ないとも思うが、これではもう1人の有名東大教授である某脳科学者の傲慢なガサツさと何も変わらない。ただ、そこはやはり姜さんの謙虚な人間性なのだろう、なぜか許せてしまうのが不思議だ。
部分部分面白いところもあるので、いったいいくつ星をつけるべきなのか正直迷ったが、姜さんにはまだまだ悩みつづけてほしいという期待を込めて1点にしておく。同じ期待を持つ人は遠慮なくどんどん1点を付けよう。勝手な意見かもしれないが、姜さんは悩むために生まれてきたのであり、ミュージカルに出ても意味がないと思うのは自分だけではないだろう。