表現の仕方や細かな間違いをあげつらうのは簡単でしょう。 けれども少なくとも乳がん治療のこの15年間の変化を見たとき、この本の与えた影響は相当大きかったのではないかと思います。
15年前であれば間違いなく乳房全摘で、もしかするとハルステッド手術を受けていたかも知れない人たちが温存手術を受けられるようになり、温存療法が大半というような病院も出てきています。 またセンチネルリンパ節生検によってリンパ節郭清の後遺症に苦しむことも減って来ました。 郭清するにしてもステージIに留めることが増えています。 この本の主な主張である「手術偏重」と「リンパ節の過大切除」は、15年前には間違いなく事実だったのです。
そして外科医(手術医)が全権を握るのではなく、放射線科医・病理医・腫瘍内科医などがチームとなって集学的な治療をするのも常識となって来ています。 手術原理主義で治療法を考えるのではなく、手術・放射線療法・化学療法を組み合わせて考えるようになったのです。
さらにセカンド・オピニオンも普通に行われるようになりました。 同じ患者に対して外科医と放射線科医と腫瘍内科医の考える治療方針に違いが出るのはむしろ当たり前で、「一つの正解」など決してないことがほとんどだということです。 それどころか、同じサンプルを診断しても、病理医によって悪性・良性・不明(経過観察)に分かれてしまうこともあるのです。 その中から自らの治療をどうするか決めていかなければならないのですから、まさに情報戦であり持久戦である、そう思うようになりました。 そのような考えを持つきっかけになったのがこの本だったと言っても過言ではありません。 それだけのインパクトを持った内容だと思います。
なお、もう少しわかりやすく最近の情況を説明した本として、中川恵一の「がんのひみつ」、ここ20年間の乳がん治療の変化を理解するための本として生井久美子の「私の乳房を取らないで 患者が変える乳ガン治療」もお勧めします。