出版社/著者からの内容紹介
【監訳者前書き】
本書は、Debra L. RoterとJudith A. Hall著の『Doctors talking with patients / Patients talking with doctors: Improving communications in medical visits』第二版の翻訳です。
この第二版は、1992年に出された第一版に新たな章や最近の文献を追加する形で2006年に出版されたものです。
本書の特徴を一言で述べるなら、患者-医師間のコミュニケーションについて、主に数量的な分析を行ったこれまでの研究の結果を分かりやすく総括した教科書的な存在であると言えます。この領域で、これまでどのような視点から研究がなされてきたのか、何がどこまで明らかになっているかを概観するには最適です。
数量的な分析手法の中でも、中心に紹介されているのが、著者の1人であるローター博士が開発したRoter Interaction Analysis System (RIAS)に代表されるような機能分析を用いた研究の結果です。これは、医師や患者が話した言葉を、その機能と内容によって分類し集計する分析方法で、これまで米国だけでなく、ヨーロッパ、アジアなど多くの国々で使用されてきました。わが国においても、最近、日本語版のマニュアルが刊行され、ワークショップが開催されるなど、徐々に広まりをみせています。
これまで日本では、コミュニケーションに関する科学的な研究が遅れてきたこともあり、患者-医師関係やコミュニケーションに関する議論は、経験的もしくは理念的なものに終始することがしばしばでした。本書は、診療でのコミュニケーションや行動に影響を与える医師や患者の特性、診察でのコミュニケーションの構造や機能、さらにそれらが患者や医師の満足度、患者の健康状態の改善といったアウトカムに及ぼす影響などについて、主に米国で行われた先行研究によって示されてきた科学的な根拠をもとに論じています。日本と欧米とでは、対人関係やコミュニケーションの取り方に文化的な差異があることは広く知られていますが、医療におけるコミュニケーションの基本的な構造はむしろ驚くほど共通しているというのが、これまで日本でのRIASを使用した研究などからも分かってきています。もちろん、研究結果を解釈、応用する上で、社会文化的な背景を考慮すべき部分もありますが、本書の示唆は日本の読者にとっても十分意味のあるものであろうと考えます。
本書が医療におけるコミュニケーションの研究・教育にかかわる人たち、それを学ぼうとする人たちにとって役立つであろうことはもちろんですが、同時にそれ以上に、引用されている研究のまさに対象となっている臨床の医療者、そして患者さんにとっても役立つものであると考えています。この中には、医師と患者の日々の出会いをよりよいものにするための科学的な根拠に基づくヒントが多く含まれています。著者らも述べているように、
コミュニケーションは相互作用的なものであり、どちらかが変わるだけでも変化するものです。つまり、もし現状のコミュニケーションに問題を感じているなら、それを変える力は医師、患者のどちらもがもっているはずだからです。日本の医療者や患者にとって、この本が少しでも助けとなればというのが私たちの願いです。
本書の翻訳の話が持ち上がったのは、著者の1人であるローター教授をはじめ、ジョンズホプキンス大学の研究者を招聘して2006年3月に東京大学で開催されたシンポジウム『医療コミュニケーション研究と面接教育』の懇親会の席でした。ちょうど原書の第二版
が出版される少し前でしたが、その場で参加者の中から共訳者が集まり、帰国したローター教授から届いた英語版のゲラをもとにさっそく翻訳作業が始まりました。このシンポジウムは、ファイザーヘルスリサーチ振興財団から平成16年度国際共同研究として助成を受けた『日米医学部における医学教育の現状と課題』の一環として行われました。奇しくも原書の第一版の頒布は米国のファイザー社によってサポートされていましたが、今回日本において、翻訳出版のきっかけを与えてくれたファイザーヘルスリサーチ振興財団のこのような領域の研究・教育に対する一貫した理解と助力に感謝いたします。
訳者一覧をご覧いただけば分かるように、本書の訳者は医学、公衆衛生学、社会学、言語学など様々な専門分野で、医療コミュニケーションの研究や教育に携わっている人たちです。また、3章のスタイルズ(Stiles)のVerbal Response Modeの訳について、名古屋大学大学院 教育発達科学研究科 心理発達科学専攻の田中伸明氏にご助言いただきましたことを感謝申し上げます。日本では、医療系と人文社会系の研究者の交流が比較的少なく、それが欧米に比べてコミュニケーション研究が立ち遅れている理由のひとつとしてしばしば指摘されています。そのような中、今回の翻訳をこうした学際的なメンバーで行えたことは非常に意味があると同時に、翻訳上の強みでもあると考えています。今後、医療におけるコミュニケーションの研究や教育において、こうした学際的な取り組みが増えてくることを願ってやみません。
2007年4月 監訳者 石川ひろの、武田裕子
出版社からのコメント
患者ー医師間のコミュニケーションについて、主に数量的な分析を行ったこれまでの研究の結果を分かりやすく統括した教科書的存在の書籍
原題 『Doctors talking with patients/Patients talking with doctors:Improving communications in medical visits』第2版