原著"Ars Amatoria"は、"The Art of Love"、すなわち『愛の技法』という意味。どうやって女の子を口説くか、口説かれた女はどう対応すべきか、男の品定め、女の品定め、上手な浮気の仕方など、テクニックを伝授するハウツー本。古代・中世のヨーロッパ人たちは、こっそり回し読みして楽しんだのだろう。アベラールとの悲恋で知られる才媛エロイーズも本書を引用・紹介しているから(「第六書簡」)、中世の修道女たちも読んでいたわけだ。古今東西、"実用書"には必ず需要があるが、今回ついに岩波文庫に新訳が登場。本書はさすが"官能詩人"の書だけあって、記述もストレートだ。旧訳(樋口勝彦訳、平凡社ライブラリー)と比べてみよう。「私は[女が]自分の喜悦をついもらす声を聞くと嬉しくなる。私に待ってくれとか、こらえてくれとか、いってくれるのは嬉しい。女の愛の狂的な、もう参ったという目つきを見たいものだ。彼女をぐったりさせたい。もうさわってくれるなと拒ましめたい」(旧訳p95)。「女が自分が味わっている喜びの声を洩らし、私にちょっと待ってとか、もうちょっと我慢して、などという声を聞くのが、私にはうれしいのである。愛する女が狂態をさらして、もう駄目というような眼をしているのが見たいものだ。ぐったりとさせて、当分のあいだもうさわらないで、などと言わせてみたいものだ」(新訳p92)。どうです、おおらかな古典を新訳で読むのもいいものでしょう。