モーニング娘。通算49枚目となるシングルは、ソリッドでキレの良いサイバーパンク調のナンバーとなりました。
モー娘。ならではの高度に鍛え上げられたパフォーマンスは、メタリックなコスチュームさながらに百戦錬磨の洗練でピカピカに磨き上げられています。
12体のサイバネティック・オーガニズム(人体工学機械)の操り人形は、見えない吊り糸を振り切って踊り出した生き人形さながらです。さすが歌舞伎から暗黒舞踏まで世界に名だたる舞踏先進国-日本が誇る真打ちダンスパフォーマンスグループの面目躍如であり、
まるでカラクリ人形を思わせる決めポーズにフリーズする瞬間、我々は歌舞伎の見得(みえ)や人形浄瑠璃の美学を垣間見てしまいます。こちらの限定盤Bにはフォーメーション重視したダンスバージョンが収録されておりますのでダンスをコピーしたい方にはこのBがお奨めです。映像は主にレフトと正面の据え置きからのズームショットで構成されていますが、いくぶん仰瞰ぎみのカメラワークが実にカッコいいです。
彼女らを観ていると、アイドルパフォーマンスグループというものは、ただ激しく踊ってみせられれば凄い.というものでは無いのだと思い知らされる。彼女らのダンスは先に述べた日本スタイルの舞踏文化の歴史をバックボーンに日本女性ならではの”たおやかさ”や女らしくセクシーな”しな”が"フリ"の中にさり気なく仕掛けられており、そのサブリミナル効果の魔法で観る者の胸をキュンとすくませる。『恋愛ハンター』のコレオグラフィ(振り付け)は、昨今の本末転倒したようなダンスバトル合戦への、見事なアンチテーゼになっているのではないでしょうか。
なによりも新垣里沙.田中れいな.のツートップの歌唱力は、他の追従を許さないまさに燻し銀のような輝きを放っている。
これこそが日本のお家芸たるアイドルパフォーマンスグループのひとつの完成形であり、14年の歴史に洗練された美学というもの。
これこそが"モー娘。スタイル"というものです。
モー娘。のパフォーマンスの前には、むやみに激しいダンスを売りにするフォロワーグループは、歌唱力で勝負できない弱みから観衆の目を逸らさすミスディレクションなのではないか.と思えてしまいます。
つんく♂とモー娘。が仕掛けたこの新曲の巧妙なワナに耳と目を奪われ一度とらわれたが最後、獲物達は一網打尽。たちまちモー娘。の虜となるだろうから、観念しなさい。私はM男ではありませんが、こんなキュートでセクシーなハンターになら喜んで狩られたい。
MVと言えば大方アイデアが出尽くしどれもこれも変わり映えしない中、メンバーがファッション誌の表紙を次々と飾ってゆくモーション・トラッキングも斬新で、なによりも洗練されている。風を感じさせるような映像の疾走感は曲のグルーヴと見事なシンクロをみせている。M.V映像監督もコレオグラファーの仕事も縁の下の力持ちはまさに"生き人形遣い"のごとし。スタッフ総勢の目には見えない絆と操り糸が彼女ら一人一人の手脚に繋がっているのでしょう。
彼.彼女ら制作スタッフへの惜しみない拍手も忘れずに送りたい。
7代目リーダー新垣里沙はラストとなるこのナンバーでフロント.センターを取り、有終の美を飾った。誰もが認める実力派だけに、彼女のそんなストイシズムは実に凛々しく清々しく格好良いではありませんか。このMVを観て、もしかしたら高橋愛がいなかったパラレルワールドのモー娘。を垣間見てしまったかの様な感慨をいだくのは、けっして私だけではないでしょう。本来ならばメインボーカルを担える歌唱力を備えながら、これまで高橋愛の陰となり不平一つ漏らさずバイプレイヤーに徹しグループに貢献してきた新垣里沙。
語弊を怖れずに言えば、彼女は高橋愛という花を支える萼(がく)であり葉鞘でありけなげな若葉だった。その彼女は今、華やかに花咲かせ、"娘。"を率いるリーダーの重責を勤め上げその全てを次世代に託し有終の美を飾ろうとしている。
決して平坦でなかった悪路を駆け抜けた彼女の10年の足跡を知る人は、そして心が見える人には、彼女が"勝者を讃える月桂樹の冠"を頭頂に戴いているのが見えるはずだ。
そんなふうに想像力を働かせてみれば、彼女のイメージカラーが黄緑色でなければならなかった事の真意が、今ようやく解き明かされたかのようで感無量であります。
9期10期と相次いで加入した新メンバーらを、短期間の間にこのレベルまで引っ張り上げた新垣里沙のリーダーシップは賞讃に値します。
そして数々の逆境.苦難にもめげず、彼女がキャリアを収めた10年と267日という前人未踏の大記録は、アイドル史に燦然と輝く金字塔を打ち立てました。凛(りん)として第一線から身を引く彼女に、我々は惜しみない拍手を送りたい。