尾崎紅葉「金色夜叉」あたりから村上春樹「ノルウェイの森」あたりまでの小説を読みながら、明治から昭和にかけて、恋愛観、結婚観がどう変わってきたのか論考している。もちろんそこには小谷野氏の“私”が色濃く出てきて、「失恋」という主題を追究したり、東大生はモテるか、ということを検証したり。
それにしても凄いのは、膨大な量の小説が参照されていることで、この点では小谷野氏の右に並ぶ者はいないかも。いわゆる名著だけでなく、今では誰も読まないような作品も丹念に拾っており、そういう作品を論じた時の方がおもしろい。と言うかおもしろすぎ。古くさいとは言え、確かに「真珠夫人」も「僕たちの失敗」も昼ドラになっているしね。「東京ラブストーリー」や「ふぞろいの林檎たち」など、マンガやドラマも同等に真剣に考察するあたりがまたいい。昭和の歌謡曲を扱った章も秀逸だ。
ヒロインたちを追って見て行くと、見合結婚が当たり前で、恋愛結婚が許されなかった時代から、恋愛結婚が当たり前になり、婚前交渉が是か否かを問う時代になり、ついには恋愛しないなら結婚しなくてもいい“負け犬”世代へ。案外短い間に常識が変わることに驚く。
昭和三十四年に一夫一婦制を疑問視する本が出ていた、という話もおもしろい。この「姦通のモラル」という本では、互いの婚外恋愛を認めあうことこそ夫婦の愛、ということが書いてあるのに、著者自身がそれを実践しきれなかった様子。このテーマは小谷野氏の「帰ってきたもてない男」に引き継がれている。縦軸に昭和という時間の流れ、横軸に小谷野氏の独自のテーマ性が並んだ魅力的な一冊と言えるだろう。