*【以下結末に触れています】
フットボール中継で、選手に激突されたTVカメラマン(ジャック・レモン)。幸い怪我は軽症だったが、義兄の弁護士(ウォルター・マッソー)が後遺症が残ったように装うことをそそのかし、フットボール選手から賠償金をふんだくろうとするのだが…。
ワイルダー作品ということと共に、ハリウッド映画史を語る上で忘れてはならない名コンビ、―「おかしな二人」―レモンとマッソーが初めて共演したことでも有名な作品。ワイルダー作品としては語られることが少なく、また、ワイルダー自身も、キャメロン・クロウとのインタビュー本『
ワイルダーならどうする?―ビリー・ワイルダーとキャメロン・クロウの対話』の中で、「(キャリアの)転落の第1歩」などと冷淡に言い放って失敗作とみなしているようだが(撮影中、マッソーが心臓発作で入院するという災難にも見舞われる)、地味ながらも、例によって、軽妙な語り口と皮肉な視点で、ワイルダー節の冴えた佳作になっている。
生き馬の目を抜く訴訟社会アメリカを、ワイルダーは、たっぷりの皮肉と滑稽さで描き、その中で、人間的な倫理を保ち続けることはできるのか?という問題を提起していく。章立ての構成で、あたかもフットボールのゲームのように緻密に計画―そう、悪徳弁護士マッソーにとっては、賠償金をふんだくろうとするゲームにほかならないのだ!―を実行させていく構成が洒落ている(のちにジョージ・ロイ・ヒルが、『
スティング [DVD]』(1972)で、もっと遊び心を込めて章立てにしている)。倫理のカケラも持ち合わせていない悪徳弁護士マッソーと倫理的に苦悩する小心者レモンを徹底して対比させる演出が最高に可笑しい。マッソーが、ほとんど『
ファウスト クリティカル・エディション [DVD]』の悪魔メフィストのようにあの手この手で甘くそそのかし(常にずる賢そうな目つきで!)、小心者レモンの魂を抜き取り、骨抜きにしようとする。マッソーはどう病人を演じたらいいのかを、事細かにレモンに教授し(時になだめすかせ)、時には、相手方弁護士の仕掛けた盗聴器を見破り、示談金を最高額にまでつり上げたりする百戦錬磨の悪徳弁護士ぶり。
しかし、そんなマッソーの金をふんだくろうという計画も、結局、レモンの倫理の前に崩されてしまう。すでに『
アパートの鍵貸します [Blu-ray]』(1961)で、上司に自分のアパートの部屋を情事用に貸している自分に嫌気がさし、隣人であるドイツ人医師に「メンシュ」(ドイツ語の“Mensch”=人間)になることを説かれ、思い悩んだレモンである。本作でも、彼は最後の最後で、「メンシュ」であることを鮮やかに選択してみせる。窮屈なニセの病人を演じつづけてきたレモンが、車イスから起ち上がり、包帯をひっぺがして、自由に身体を動かし、さらには鉄棒を使って本当の自分に戻った喜びのあまり大車輪までしてしまう姿は、倫理の勝利であり、「メンシュ」の勝利に満ちた解放感と爽快さだ。もっとも、それを見たマッソーは、あともう少しでこの「ゲーム」の「タッチダウン」というところで、すべてを捨て去った義弟のバカさ加減に呆れて、苦虫を噛み潰したような顔で部屋を出て行ってしまうのだが…。
この2人のコンビネーションの素晴らしさたるや、ハリウッドのバディものの先輩たち、―ローレル=ハーディ、アボット=コステロ、ホープ=クロスビー、ルイス=マーチン―にも劣らない名コンビぶり。あまりに息が合ったコンビぶりはまるで夫婦のようで、実際、本作の唯一の主要な女優であるジュディ・ウエストは、レモンが大金を手に入れるかもしれないというウワサを聞きつけ、彼のもとに戻ってくる打算的な元妻という役なのだが(邦題の「恋人」とは彼女を指している)、マッソーとレモンの関係に入り込む余地がなく、非常に印象が薄いほどだ。つまりマッソーがレモンを手なずける妻の役割も演じていたということだろう。このハリウッド映画史上の名コンビを生み出したワイルダーが、遺作として(といっても、ワイルダーはその後、映画を撮る企画を持ちながらも、それを実現できずに21年後の2002年に亡くなるのだが)、彼らコンビをもう一度主演に迎え81年に『新・おかしな二人 バディ・バディ』(日本ではヴィデオ発売のみ)を撮ったのも感慨深い。ワイルダーなりのコンビを誕生させたことに対するケジメ的な意味もあったのかもしれない。
本DVDは、旧作のDVDに全く力を入れないMGM/UA作品にしては珍しく、きちんとスクイーズ(2.35:1)での収録。かつて、ワーナー・ホーム・ビデオから発売されていたVHS、LDが、4:3トリミング版だったので、オリジナルの画角で本作を楽しめるのはありがたい。画質は、キズが目立つようなところもあるが、白黒諧調も良好で、ディテール表現も合格点(ただし、大画面で観るとキツイところもある)。音声は、自然で明瞭だ。特典は、予告編のみという寂しさ。1日も早く、オリジナル・ネガからHDテレシネ、レストアをして、Blu-rayで発売して欲しいところだ。