本書復刊の噂を耳にしたので、このページを開いたら、<ネモ>さんという方のレビューが載っていた。
<ネモ>さん同様、私の場合も、本書を読もうとしたら版元品切れ。古書には「万」の値がついていた。
そこで、買ったのが英訳本。“Prisoner of Love”。
いまでもアマゾンで売られていて、値段も千円台だから割安感がある。
英訳本にはエジプトの女性作家アーダフ・スーエイフ(Ahdaf Soueif)の「序文」がついているが、そのなかで彼女はこう書いている。
《この最後の作品が仕上がったのはまさに、1986年に彼が咽頭がんで亡くなる直前であった。シリアスでありながら遊び心に満ち、ロマンチックでありながら断固としていて、文学的でありながら現実的な『恋する虜』はジュネの集大成である。すなわちその芸術、その政治学、そのヒューマニティの――》
私もまさにそのとおりだと感じた。
本書はモザイクのように織りなされている。
したがって、一貫した叙述があるわけではない(もちろん、パレスチナ人への共感という通奏低音はあるが)。
ジュネがパレスチナのキャンプで小母さんたちに囲まれていたかと思うと、アメリカにおける黒人解放組織ブラック・パンサーとの思い出が語られ、花束に爆弾を仕掛けて兵士に捧げた少女が出てくる……といった具合だ。
そのなかでいちばん印象に残っているのは「ハムザ母子」のエピソードだ。
ハムザというのは、ジュネが出会った若いパレスチナ人兵士。
彼がジュネをパレスチナ・キャンプにある自宅に連れて行くと、出迎えてくれたのは彼の母親。50代の寡婦で、武装していた。
その晩ジュネは、戦闘に出かけたハムザの部屋に泊められた。
すると、母親が部屋に入ってきて、ベッド脇のテーブルにコーヒーと水を載せた盆を置いていく。おそらく彼女は毎晩、息子のためにそうしていたのであろう。
そのとき、孤児であったジュネは、自分より若いハムザの母親に<母>を感じる。
その後、「ハムザ母子」のイメージが脳裏に焼きつき、やがて彼らはパレスチナ闘争の象徴のように思えてくる……。
こうしたエピソードや、ジュネなりの考察がふんだんに詰まっていて、じつに<濃密な本>になっている。
アーダフ・スーエイフのいうように、《ジュネの集大成》といっても過言ではない。