フェルメールの絵に描かれた光と色と質感がもたらす感動(絵を前にしてゆっくりと時間は流れる)は言葉では伝えられないが、やはり伝えたい、そのための言葉を探す、90年・ボストン〜08年・東京(文庫版あとがきにかえてで、単行本上梓のときには未見の一作品との東京での邂逅に触れている)のフェルメールの絵との出会いを記した好著。
本書はまた、折々の絵との出会いの前後の生活を語り、心の成長も綴る。何をしていいか不安だったアメリカ時代、日本で父と25年ぶりに再会して心が通じるようになり、その父の他界を迎えるまで、そして作家のキャリアを積む様子が描かれる。
人生の時々に出会うフェルメールの絵に、自分の感性を信じて素直に向き合う著者の姿勢(例えば絵の寓意を追い求めない)に共感する。
朽木ゆり子著「フェルメール全点踏破の旅」は短期間の旅行記なので未見の絵が数点あったが、本書では行方不明の「合奏」以外は全部見ており、映画・小説への言及も詳しい。本書も絵はカラー印刷だが、「全点踏破の旅」は全頁カラーで、新書なので絵も大きく、街の写真もあり、寓意等の解説も多い。各々特徴があり、どちらもお薦め。