有島武郎の弟で白樺派の一人と文学史的には知っていたし、面白いと噂には聞いていたけど初めて読みました。いや、おもしろい。短編というには一つ一つがやや長めの本作では「縁談窶」と「妻を買う経験」がよかった。
前者は大正14年に書かれたもので、初老の男が幼いころから知っている知り合いの娘が、適齢期を迎えて見合いを繰り返すのだが、男からみると娘は「縁談窶(やつれ)」ともいうべき精神的に不安定な状態にある。そんな娘を男は鎌倉の家に招待するのだが、、、という話。後者は昭和22年に書かれたもので、これも初老の男の知り合いの息子が芸者と結婚したいと言い出して、お金のことやら家族のことやらを引き受けた男が、うまく話をまとめようとして仲介しようとするが、、、という話。
ともに、「観察者」である主人公の細部にわたる詳細な報告もすばらしいし、それが自分に跳ね返ってきて記憶をまぜかえすのもすばらしい。ヘンリー・ジェイムズの名作「大使たち」に負けないといっては言い過ぎかもしれないが、内的独白と仲介者の悲哀の感覚は珠玉の出来栄えです。