興味深いことがいろいろ書かれている。柳田国男が田山花袋に対して示した小説の素材の提供である。「山の巡査達」「一兵卒の銃殺」そして「靄」は友人が私に語って聞かせる怪談という趣向をこらしている。花袋は再三柳田の内面を描写し、柳田を怒らせる。
ボートが何者かに捕られたのを、神経がよほどどうかしているなと「怪談」が神経症と神秘の間で揺れ動く時期に生まれていることを示している。そこには柳田が生涯,花袋の文学活動に翻弄された印象を受けて、その関係が面白く感じられる。
小説の中の柳田は、「文学アイドル」を相対化して、「軽く」描く視座の「アリュウシャ」は「蒲団」の前年に発表されている。「樺太紀行」の中で、柳田の文学的自意識としての「我」が強く表出されていることが注目される。ロシア少女への淡い恋心、それは内面嫌いの柳田にとって望みたくない小説であったに違いない。
明治四十年代初頭、代表作「蒲団」「遠野物語」を互いに否定し合うことで、かえって感情的に離反していた二人の関係に「復調」が見られる。大正五年頃からである。そして柳田の山人論再構築が始まる…というように、時代を追って綿密な資料を提示しながら両者の「自然主義」反応を追求して、興味は尽きないのが本書である。意外性のある両者(いずれも歴史上の人物)の組み合わせ論考に視野が広がった次第である。