「愚物が偉大な叔父の七光りで政権を手に入れたが、分不相応な拡張主義が祟って没落」という従来の見方を一新させる。ルイ・ナポレオンの理想は自著にも記された「民衆の正当なる欲求を満たすことによって革命の時代を閉じる」こと、すなわち大革命以来の政治的動乱の時代に終止符を打ち、内政の安定のもとで産業振興と労働者階級の福祉充実を図ることにあったと筆者は分析する。
矢継ぎ早の福祉政策や、労働者階級の政治的権利拡大などの施策は、第二帝政が大衆の支持に立脚するという点を割り引いてもなお新鮮である。これらはルイの思想形成にサン・シモン主義が影響を与えた結果であるとしている。
また、パリ大改造についてもその着想の出発点を衛生、景観、治安対策に矮小化させることなく、流通促進と循環による富の増大を視野に捉えていたことを立証している。
不動産担保に拠らない事業金融会社を創設し、退嬰的だった伝統的銀行までがこれに刺激され商工業、運輸が急速な発展を遂げる様子、独断で電撃的に締結した英仏通商協定(関税クーデタ)で自由貿易に道を開き、結果的に国内産業の覚醒を促したことなど「産業皇帝」としての側面も紹介されており、こうした新しい時代の幕開けを感じさせる記述は、本書の中でも一きわ精彩を放っている。
外交・軍事における失敗(メキシコ出兵、普仏戦争)や、クリミア戦争、イタリア戦争の悲劇的側面にもしっかり言及している。結果的には外交面での蹉跌が致命傷となったが、その功績にも光を当てることで、近代国家フランスを準備した君主の真実の姿を立体的に描き出すことに成功している。
風刺画、写真、肖像画が豊富に使用されており、本書の起伏に富んだ盛りだくさんの内容を理解するのに大変効果的。
植民地政策への言及がわずかである点は少々バランスを欠くかもしれない。