主人公の作家「都筑道夫」が「怪談」の執筆依頼を受けて本作を書き始めた、という人を喰った説明で始まる「怪奇小説」。作者が自らを技巧派と称するのが頷ける緻密な構成に成っている。
締め切りに迫られた主人公は、巷間知られていないアメリカのスリラーの舞台を日本に移した作品を書く事を思い付く。その結果である本作の構成が凄い。
(1) 基になった(架空の)アメリカの小説の記述内容
(2) (1)の舞台を日本に移した主人公の執筆結果
(3) (2)の作業中の主人公の日常を描いた三人称部分
前半はこの(1)〜(3)が切れ目なく続いて、読者に酩酊感を与える。(3)の中で、主人公が幼い頃に亡くなった筈の従姉を見かけた所から始まる、所謂怪談風エピソードもキチンと用意されている。この従姉に見えた人物が実は(美)男だったという作者にしては珍しいエロティック趣味も出しているが、その美男「ムリ」が元は女だったと告白する辺り、虚実の罠が深い。全編濃いブラック・ユーモア味も漂っている。そして、失踪した「ムリ」の本名は、戦死した主人公の従兄と同姓同名らしい...。この辺から(3)を主体にミステリ味・怪奇味が濃厚になって来る。
結末に到って構想の壮大さに圧倒される。迷宮感と異形性が強烈である。「鱗と穴」が怖い。精緻な構成も光る。まさに快作(怪作?)と言って良い出来だと思う。