児童虐待の通告件数が、この10年で10倍以上に伸びていることはよく知られた統計である。その一定数は性虐待に絡むのだが、児童虐待の中でもとりわけこの問題は幾つもの位相において扱いにくい問題であり続けてきた。
本書の編者は、臨床心理士として、前著で性虐待のタイプ別に考察し、その発見と防止を呼びかけたが、本編著では「ふせぐ」ことに力点を置き、9人の著者にその「ふせぐ」ための臨床の知の集積を呼びかけたものと言えよう。
「第1部発見と防止−学校臨床」では、普通学級と特別支援学級の事例から、学校という場が家庭以外で日常的に子どもたちに接するだけに、問題の早期発見の場であり得ながら、カウンセラーや教員がどこで迷うのか、しかし、深刻な虐待に至る前にどういった兆候に気をつけた方が良いのかを示している。
「第2部介入―児童相談所・児童養護施設・警察」では、問題が疑われたり、発覚した後に、どのような経路で児童相談所に報告が行き、どのようなサポートが他機関との連携でなしうるのか、また、一つの選択肢として児童養護施設にそうした子供がどのくらいおり、職員がどのようなことに気をつけて取り扱う必要があるのか、さらには、警察が近年、少年センターなどを通じて、どのようにこの問題の支援者になり得るのかを示している。
「第3部援助―民間医療における援助論」では、依存症の民間専門機関と女性ライフサイクルの民間専門研究所の事例から、当人のみならず、その家族も含めてどこに配慮して扱うべきか、また、子どもの性虐待が女性のライフサイクルのなかで出てくる事例からその取扱いの太い方針が述べられている。
驚くべきは、本編著のような重要な執筆企画が持ち上がった時、「プライバシーに触れる事例の記述は不可能だ」と複数の臨床家からの執筆を断られたということである。本問題の扱いにくさの一面を示す挿話と言えようが、それだけに本書の試みは貴重である。