個人的に大江健三郎という作家に出会うのが遅かったのが悔やまれる。
「性的人間」も「セヴンティーン」も「共同生活」も、文体の力が並ではない。
文章を書くことは誰にでもできるが、読者に食わせる文章を書くことは一握りの人間にしかできないことだ。
そして大江健三郎の文体にはそういう魅力が備わっていると思う。
「性的人間」は二部構成となっている中編小説で、
第一章は山荘に映画を撮りにきた男女らの群像劇、
第二章は第一章のメインキャラ「J」と新しい登場人物による電車痴漢劇である。
「痴漢」という言葉がここまで頻繁に出てくる作品は初めて目にした。痛快ですらあった。
逃げ道のない痴漢行為でなければ真のオルガスムに達しない、という性生活をもつ人間に戦慄した。
「セヴンティーン」は十七歳の誕生日を迎えた少年が、<右>の活動に染まるまでを描いた物語である。
自分ひとりの世界で煩悶していた少年が、大義名分を得て悪を為すようになる様が尤もらしかった。
無理やりくっつけたような失禁描写が気にはなるものの、面白かった。
大江氏はどうも下の汚い話をマジメに書くことを文学的誠実と思っているようだ。
「共同生活」は青年と四匹の猿の共同生活を描いた短篇である。
猿との共同生活は青年にとって免れられない束縛であった筈なのが、最後の最後で変わってくる。