腰痛の病態把握に大きな変化が起き、従来の「生物学的損傷」という機械的なモデルから脱却し、さまざまな要因によって生じる「生物心理社会的症候群」として腰痛を捉え直すようになってからずいぶん時間が経っています。それにもかかわらず、いまだに前世紀の理論や根拠のない情報が氾濫しているこの国は、いったいどうなっているのでしょう。
「ニューズウィーク日本版」(2010年4月14日号)によれば、リスク(害)がべネフット(利益)を上回る無駄な医療をやめるだけで、年間50兆円の医療費を削減できるそうです。この役立たないことが証明されている医療の中には、腰痛に対する画像検査(約3兆円)や脊椎固定術(約2兆円)などが含まれています。事業仕分けも大切でしょうけど、医療仕分けも必要な時代になっているのではないでしょうか。
そういう点からいえば、有効な医療と無効な医療、あるいは有害な医療を明らかにし、可能な限り急性腰痛の段階で改善させ、何としても慢性腰痛へ移行させないという意気込みが伝わっくる本書は良書といえるでしょう。とりわけ、「イエローフラッグ(心理社会的危険因子)」に関する詳細な説明と、腰痛のために職を失う恐れのある患者のスクリーニング法は大変興味深いものでした。
ちなみに、医学界がどのように進化を遂げてきたかを知るには、『腰痛は怒りである』『腰痛は終わる』『腰痛ガイドブック』の順に読めばよく理解できると思います。不適切な医療が排除されれば腰痛産業に大きなダメージを与えるでしょうが、食い物にされてきた国民は大きな利益を得ることになります。そのためにも本書のような世界各国の根拠に基づくガイドラインが翻訳出版されることを希望します。