精神科医を養成する医学部の講座ではエビデンスのある論文(ホントにエビデンスあるの?)の数が稼ぎやすい上に英語論文が書きやすい薬理と生物系が栄華を誇り、精神病理や精神分析に基礎をおくいわゆる精神療法などの dialectical なアプローチは急速に死に絶えつつあります。
論文を書く前提としてのエビデンスの根拠を求めて DSM 診断が全盛です(取りあえず診断をつけないと統計処理はできません)。
しかし主義主張や好き嫌いは置いといて、DSM 診断をするにしても、薬理中心の治療をするにしても、精神科医はことばを使った臨床から全く無縁でいるわけにはいきません。面接を全くしない診断・治療は存在しないし、許されません。
面接の初心者には笠原氏、熊倉氏、中安氏などが初心者のためにと銘打った名著、好著を出版なさっていますし、ある程度理論と経験を持っている人には土居氏、神田橋氏の著書を代表としてあまたの名著が世に出ています。
しかし、それらは初心者向きの本でさえすべて読者を選びます。
ある程度の精神病理や精神分析、精神症候学などの知識と臨床経験(最低一定期間の陪席)が必要です。
精神科医を養成するシステムの中で面接による診断力と治療力の養成が欠落してしまいかけている今、初学者が、望ましい面接とはいかなるものかを具体的に知るチャンスは本当に貴重なものです。
この本はいくつかの思春期シュミレーション面接によりその貴重な機会を与えてくれる本です。センスのある人は思春期面接を成人面接にも、子ども面接にも膨らませることができます。
精神科医になることに興味のある中高生から医学部学生、研修医まで一度は読む価値のある本です。背景知識が仮にゼロでも楽しく読め、ある程度は理解できます。
えらそうなことを書きましたが、近縁分野専門家であるつれあいの意見です。
私自身は面接には縁もゆかりもない人間ですが、読み物としてとても楽しめる1冊でした。
精神療法を行う精神科の診察室で何が行われているか知りたい方にもオススメです。