この本を要約すれば、思想の取り締まりという問題において従来、特高警察に比べてあまり注目されていなかった思想検事というポストに光を当て、治安維持法から破壊活動防止法に至る思想検察から公安検察への歴史的流れを実証的に追ったもの、とでもなろうか。文献資料を駆使して丁寧にまとめ上げられた研究である。
特高警察に比べて頭数的にははるかに少ない思想検察は、にもかかわらず治安維持法以前から無視できない影響力を行使し、様々な社会運動―社会主義・共産主義運動にとどまらず、宗教活動や学問言論に至るまで―への抑圧において主導権を握っていた。そうした「思想戦」「思想国防」のための検察サイドの体制整備過程が堅実に描き出されている。
もちろん、この本の意義はそれだけにとどまらない。当事者の言葉をふんだんに引きつつ、「思想を取り締まる」という使命を忠実に果たそうとする人間が、どのような心情と論理をもって職務に邁進したのか、そうした点が鮮やかに再現されているのも興味深い。特高警察に比べて敗戦に伴う公職追放の影響を小規模にとどめた思想検察人脈が戦後の公安体制に流れ込み、そうした人々が自省なきままに戦前と同じ言動を繰り返し、公安検察の整備に邁進していたという指摘は重い。
戦前と戦後の断絶と継承という問題を考えるに当たって、得るところのすこぶる多い一冊である。