ベルクソンにとっての哲学の「方法」をストレートに打ち出した「諸論」や、
他にも「可能性と事象性」や「哲学入門」など、いずれも密度の濃い著者の代表的論考を含む論文集。
彼の説く「直観」を理解するには本書の熟読は必須であり、またベルクソン哲学への導入としても理想的な書物である。
さらには、哲学一般に関する興味などはなくとも、真摯に物事を見、感じ、生きようとする人には是非とも手にとってもらいたい一冊である。
この岩波文庫版は以前同文庫で発表年代順に三分冊で出されていたものを一冊にまとめ、本文を木田元が補訂したものである。
本訳書の最大の特徴は、詳しくは巻末の木田元による解説に譲るが、訳語の選択が訳者である河野与一(及び何人かの弟子筋の人々)独特のものであることが挙げられる。
これを吉とみるか凶とみるかは人それぞれであろうが、個人的な印象を述べると、まだフランス語もままならない学生時代の私にとっては本訳書は決して読みよいものではなかった。(もっとも、あくまで訳語の選択に関してのことで、訳文全体としては実にこなれた優れた翻訳であることは言っておかねばならない。)
補訂を担当した木田元も、「解説」において河野にたいし惜しみない敬意を払いつつも、独特の訳語にたいしては疑義を呈している感がある。
購入の前に一度書店での立ち読みや図書館で借り出しをするなどして「解説」を読んでおくとよいかもしれない。
以上を考慮した上で安価な別の訳本をお求めなら、レグルス文庫版『思考と運動』(上・下)という選択肢もある。
もちろん、哲学書の翻訳としてはどちらも安価なのだから、両方を買ってもいい。