今年の夏、還暦で亡くなった著者の、これは遺作にあたる。
率直に言えば、私は小阪修平という人に、それほどの思い入れがあるわけではない。と言うよりむしろ、どこかで軽く見ていたところがある。
思想関係の早分かり本を数冊読んで、込み入った話をスッキリした図式にまとめる才は感じた。でも、その図式に動かされるようなことはなかった。小さな文章にもいくつか目を通したが、語り口は「飄々とした」雰囲気を醸し出しつつ結局は観念臭が強く、力んだ議論は肌に合わなかった。69年5月に東大駒場で行われた三島由紀夫との討論会の記憶を特権化する傾向があるのにも、少々辟易した。
ただ、実は一度だけこの人が話すのをじかに聞いたことがあって、風貌は本書の著者近影そっくりで(当り前か?)、語り口はやっぱり「問題」を「もんだい」と平仮名に開くような奇妙な平易さを漂わせていて、ああ、こういう人なんだと無意味な納得をした。そういう縁とも言えない縁があって、今年の夏に亡くなったと聞いたものだから、この本を手に取った。
で、私は小阪修平の著作を少ししか読んでいないけれど、もしかするとこの本は彼の一番の作品ではないかと思う。自分の体験に即して語られる6章までは、読んでいて心に響いてくるものがあった。ただ、80年代以降を論じだすと、著者は「わからない、わからない」と繰り返し呟き、実際話は身に沁みない、観念で切るような方向に行ってしまっている…と、私は思う。でも、小阪修平という人が、一番素直に表れている本であることは、きっと間違いない。