連作長編である。
それぞれの物語は、主人公の独白で構成されている。
40年前が舞台になっているので少々古めかしいが、普遍的なテーマを扱っているから第一章を読み終える頃には違和感はなくなる。
若かりし頃、自分の優柔不断が原因で自殺した恋人、自分より遙かに若い戦友の死に立ち会った体験、藤城は孤独な思いを抱えたまま年を重ねている。
物語はそこから始まるが、藤城が主人公と定まったわけではない。
漂泊の魂と孤独な愛 というバトンが次の走者に手渡されるのである。
今の若い人が書いた小説は、個人が持つ焦燥感についてはよく表現されていると思うが、なぜ焦燥感があるかの分析はしていない。
『イライラするのよね、でも満たされるときもあるからそれはそれでいいんだと思う。 とりあえず今の恋人は大事にしたい。 いつか幸せになれるかもしれないし・・・』
読み手は共感するけれど、そこまでで終わりである。
人が生きるのは大変なことである。
しかし我々はいずれは死んで忘却のかなたに去っていくのだ。
人はなにを手がかりにして生きていけばよいのだろうか。
当時46歳の福永武彦は、このテーマに正面から取り組んで、登場するそれぞれの人物に答えを出している。
久し振りに、小説らしい小説を読んだ。