赤川次郎は非常に多作な作家であり、そのポップな文体からも軽く読む感じの
作品が多いのは確かです。しかしたまにその軽やかなタッチで心を芯まで貫くような
物凄い作品を生み出します。「忘れな草」はその一つです。
人生は長く、その中で何かを諦めてうやむやにしたり、過ちを犯してしまった
事がない人はいません。物語の主人公である布悠子をはじめとして、
登場人物は皆そういった捨てきれぬ想いを抱えています。一人の男が
彼女の住む街に訪れたのをきっかけに、皆の心の奥で息づいていた想い
が次第に膨れ上がっていきます。
ジャンルとしてはホラーに分類され、ショッキングな出来事が続きますが
それはあくまで形として現れた結果にすぎず、それよりもそこに至るまで
の登場人物の心の揺れが本当に悲しく読んでいて痛みを感じます。
決して明るい未来像を描くようなものではないのにエピローグに清々しさ
があるのは、全てを吐き出し落ちる所まで落ちたからではないかなと個人的に思います。
日々を生きる上で重ねる「仕方ない」という気持ち。それを目の前に曝け出す
この作品は、深い感慨を与えるでしょう。それが快いものでは無いとしても。