この本の形式は面接調査に基く立派な学術研究ですが、平易で読みやすく、
ビジネス啓蒙書の側面を著者らは前面に押し出しているのだと思います。
従前の「志」をテーマにした著述は、松下幸之助とか稲森和夫とか、
「偉大な経営者」のみが語りうる私たちへの啓示であったわけです。
この本は、私たちが比較的身近に感じそうなビジネスパーソン30数名の
インタビューから得られた理論と8名の実践的なケースをあげています。
その意味で従来の「啓示的偉人伝」とは違う側面から志を照射しています。
学術的に「志」をテーマにした研究は少なく、私の知る範囲では、
Buskirik Jr.(Pepperdyne Univ.) (来日時の講演で「Kokkorozashi(コッ
コロザシと発音してました)は大事だ」と何度も言っていました)と、
林「組織における「志」」『日本感性工学会誌』2009. 位でしょうか。
この本のアプローチは、ライフストーリーにもとづくキャリア形成論と
いう見方ができる一方で、調査対象と事例分析を別の角度から見れば、
普通の人々の「立志出世伝」的な感じも色濃く残ります(「立志」は
この著者らの重要なテーマですが…)。
しかし、名もなき人々(聴衆・観客もほとんどいない隠れたヒーロー、
ヒロイン)が物語る「志」こそ、いまこそ照射すべき課題であり、
そもそもの筆者らの動機であり、メッセージであるように思われます。
事例で出てくる長銀、カネボウ、…、そして出世してなくても読者
それぞれの経験の拠所になる職業組織が、人の生涯にわたる規範と
誇りを形成し、人生にポジティブな意味合いを与えていることを、
行間からも改めて垣間見ることもでき、共感できる内容でした。