2010年5月15日、第99回目の朝日名人会からの一席。
マクラでも触れられているように、本演目自体、朝日名人会でかけられるのは初めて、とのこと。
東京落語、江戸落語として移し替えた六代目圓生以来、「帯久」は久しくかけられなかった。その理由は、単に「おもしろくない」というだけではなく、このなかに出てくる二人の登場人物をどのように演じ分け、それぞれに演者自身を如何に投影するかが、大変に難しいこととも関係している。
もし、このまま演じ手が現れなければ、忘れられ、埋もれかけていたであろう演目を、志の輔師匠は大胆に再構成することで見事に現代に甦らせた、その意義は大変に大きい。もちろん、それを可能にしたのは、志の輔師匠自身の秀逸な構成力・技芸によるものであることはいうまでもない。
10年の歳月のなかで、立場も状況も大きく変化した二人の登場人物、和泉屋与兵衛と帯屋久七の人物描写が大胆にも、しっかりと行われているおかげで、落語のなかにメリハリが生まれ、聴く側はグイグイと引き込まれていきます。
圧巻は、判決の場面。裁きからサゲに至るまでの約10分間、奉行と帯屋のやりとりは、会場内の聴衆とともに聴く側にも、予想もしない展開が待ち構えている。サゲの瞬間、それは緊張が弛緩したほんの一瞬に訪れる瞬間、これがまさに名政談であることを確信させる。
※ちなみに、今作の発売に先駆けて、2003年に発売された「志の輔らくごBox」の一枚にも同演目は収められています(2000年11月30日収録・於大阪リサイタルホール)。今作との聴き比べはもちろん、「圓生百席」などとの違いを発見するのも、また一つの楽しみかと思います。