おそらく必殺シリーズファンの方々で、市松のキャラクターに魅了されなかった御仁はおりますまい。美形仕事師の元祖であることは、他のレビュアーの方々も書いていらっしゃる通りです。
ドラマ内容は、市松の育ての親がまさに不倶戴天の食わせ者だった「一筆啓上罠が見えた」と、市松の幼馴染みの女性が盗賊の女房になっていた「一筆啓上魔性が見えた」の2篇を収録しています。主水・印玄・捨三たちとは馴れ馴れしくつるまない一匹狼ぶりがピリリとしてていいですね。
にしても、仕置人・棺桶の錠とは同じ役者とは思えないクールなキャラクター造型には心底、沖雅也氏の凄さを感じてしまいます。額に汗をかきながら、威勢よく棺桶を作っていた錠のキャラクターとは対極的で端正に座敷に正座して竹とんぼなど作っている竹細工師とは(言い古されているけれど)まさに動と静。その日常の仕事場面の様子の違いからも、役作りの深さを思ったりしました。意外だったのは、クールの代表格のような市松ですが、時折(当たり前なんだけど)笑顔を見せたりもします。その表情がまたなんともカッコいいのであります。
必殺シリーズもこの作品の頃はその市井の映像から(制作当時の時代状況もあるのでしょうが)粋な感じが濃く立ちのぼってくるようでより一層味わい深いように思います。また、勧善懲悪では割り切れない何かが描かれていたように思えます。それに、市松の飛ばす仕込み折鶴など、絶対刺さるわけないのに、映像の力で「見せて」しまう。
今の時代劇にはなかなか見ることのできない豊饒さに触れることができると思いますのでお薦めです。