主演の中村雅俊の登場は、必殺シリーズ史において最後の大物スターの起用であったように思えます。山村聡や石坂浩二など、温厚なイメージのある俳優が殺し屋や闇稼業の人間を演じるという必殺独特のキャスティング論に則り、83年当時もかなり話題に上りました。
女房想いの優しく平凡な男という表の顔は、中村雅俊のパブリックイメージそのまま。それに加えてこの「渡し人」では非情な殺し屋という裏の顔をも演じる訳ですが、必殺独自の光と影のライティングの迫力とマッチして、その演技の雰囲気が見事にハマっています。
殺す相手に手鏡を見せつけ、延髄に針を刺す瞬間の決め台詞「どうかね映り具合は・・・あんたの死に顔のさ」が、またかっこいいですね。独特の朴訥な雰囲気がそのまま、表情を変えず冷徹に仕事を行う殺し屋のイメージにマッチしている気がします。
惣太以外の殺し技も、レントゲン復活の大吉(渡辺篤志)の怪力腸ひねりや、ストップモーションとクロスフィルターの特撮を効果的に挿入した鳴滝忍(高峰三枝子)の真空かまいたち一閃など、どれも見所は多いです。
個人的に「渡し人」で好きなのは、長屋を舞台にしている点もあり、人々の猥雑な生活感が画面から漂ってくる所ですね。これは惣太の女房役の藤山直美の功績が大きいと思います。
こうしたテイストは80年代以降の必殺シリーズからは次第に失われてしまったものですが、このシリーズではまだその片鱗が残されています。殺し屋2人が共に女房持ちである事から、何気で夫婦の性生活に発するセクシャルで下世話な話題が毎回のように登場するのも珍しいポイントですね。
そして最終回の出来も秀逸。これも後期シリーズではおざなり気味になっていく裏稼業ならではの“日常”との決別、別れの切なさをしっかり描いたラストシーンは、主題歌「瞬間の愛」と共にホロ苦い余韻を残してくれるでしょう。