このシリーズでは、いままで生物学、免疫学、解剖学を取り上げてきたが、本書はより扱いにくい分野に挑んだといえる。なにしろ、相手は人間の心。日々関心が高まっている領域とはいえ、まだまだわからないことだらけなのだ。
そんな学問だから、教えるほうも聴くほうも妙にわかったような顔はしない。南生徒はあくまで素人の目線で授業を受ける。だから、心理療法とカウンセリング、精神分析はどう違うかなど、ついつい知ったふりをしてやり過ごしがちなところもきちんと聞いてくれる。おかげで読者は、臨床心理学の「臨床」とはどういう意味かといった、今さら聞きづらいようなことまで理解できてしまうのだ。
河合先生も、あるときは南生徒の直感に脱帽しつつ、ときにはその誤解をきっぱりと指摘する。そんなやりとりを楽しんで読み進むうちに、心理学の歴史から箱庭療法、ロールシャッハテスト、患者が医師に恋愛感情を抱いてしまう「転移」のような問題まで、ひととおりのことが見渡せるしくみになっている。といって、お気楽な入門書かといえばさに非ず、「ノイローゼというのは文明病」「物が豊かになった分だけ、心のほうも努力しないといけない」など、ぎょっとなるような一節にもたびたび出くわす。まことあなどれない先生と生徒なのだ。
誰にでも経験のあることだろうが、人からノートを借りるときは、きれいに清書されたものより、間違いが添削されていたり、いろいろな書き込みがあったりして、思考のあとがうかがえるもののほうが数段役に立つ。とすれば、本書は理想的な「ノート」だろう。南生徒のイラストも豊富に収録されているが、これもノートに書きつけられたマンガだと思えば、いっそう楽しい。(大滝浩太郎) --このテキストは、絶版本またはこのタイトルには設定されていない版型に関連付けられています。
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河合隼雄先生は箱庭療法で有名。用意されているたくさんのミニチュア、鳥居や五重の塔など、相撲取りや兵隊とか、ありとあらゆるものを使って箱庭を作るわけである。できあがった箱庭の様子は、「健常な人と問題をかかえた人では、まったく違う」という。
本人もわけのわからないXが、箱庭のなかに姿を表してくる、という方が適切な感じなのである。箱庭療法はその作品を見ていろいろと判断するよりも、それを作った人が、そのような創造的活動によって自ら癒される、という点が大切である。どんな人でも自分の心の奥底に「自己治癒」の可能性をもっているというのだ。
人の心はわからない。わからないから面白い。みんなが持ってるものだから、心のこと、少し勉強してみよう、というのが今回の個人授業のスタートである。でも、「わかった」と思ってはいけないのだ。
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